生死去来棚頭傀儡一線断時落落磊磊
「生死の去来するは、棚頭の傀儡たり。一線断ゆる時、落々磊々」
「は?」
「文化人の土方君なら分かるだろう?」
土方君にそう言ったら、ひどく面倒そうな顔で彼はこちらを見た。
「沖田が人形だって言いたいなら他を当たれ。新八辺りに言えばそれなりに反発するんじゃねぇのか」
「はは、面白いこと言うなぁ」
そうだね、というかやっぱりちゃんと意味を理解できるあたり、土方君ってそれなりに教養あるよねぇとか思ってしまう。別に、自分に教養があると思っている訳でもないけど。
「沖田君が人形?そうじゃないだろう?」
「ほーう。常々沖田のことを怖いだのなんだのと言ってる伊東先生のご意見を伺おうか?」
挑発するように、土方君は言ってきた。そう、別に沖田君のことが怖いとか、意見があるとかじゃないけどさ、君がそう言うってことは自覚はあるんだ、って思ったら一気につまらなくなる。馬鹿馬鹿しいくらいに詰まらない。
「あまりにも脆い」
「……何が言いたい」
そう言って土方君は刷いていた兼定を抜いてこちらに向けた。
「彼女が病で死ぬ?僕には少なくともそうは思えないなあ」
それが不治の病だとしても、そうは思えないなぁ。
「僕が怖いと言っているのは沖田君じゃなくて、沖田君の在り方だし、本当に怖いのは土方君、君だろう?」
「……死にてぇか?」
「ハハ、僕のこと斬る気概なんて君にはないだろうに」
切先を向けられたが笑ってそう言えば、彼はじっとこちらを見る。
そう、彼女の死は病によってもたらされるものではない。彼女の力が、彼女への恐怖が、彼女の在り方が、そうやって自発的に生まれたものではないように。
「生死の去来するは、と僕は言った」
「……」
「彼女が死ぬのは一線が途絶えて操り手がいなくなった時だろうと言っているだけだよ」
そう、本当の本当は、沖田君は人形じゃない、傀儡じゃない。それを見出して、操って、そうして、その死さえ君は。
「だから、じゃないけども」
「おまえに言われる義理はないな」
土方君の一言に笑いが落ちた。その通り、かもね。
「精々頑張ってよ、磊磊と落ちてしまわないように」
*
だからってワケじゃないけども。
「馬鹿だなあ、沖田君は」
僕を斬ってから咳込んで血を吐いた沖田君に思わず言ってしまう。言葉が声になっていたかは分からないけれど。
「君を殺すのは、きっと病じゃない。君の生死は病によってはもたらされない」
ね、土方君?近藤さんと土方君を喪った時、或いは斎藤君や永倉君にも置いて行かれた時、沖田君のその一線は、きっと途絶えるだろう。
「馬鹿だなぁ、本当に」
誰かのために生きるのは、ある意味で美しい。ある意味で尊い。
だけどね。
「君は君のために生きて良かったんだよ、沖田君」
僕が僕の気持ちのために、死ぬように、ね?
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2023/12/08
「生死去来棚頭傀儡一線断時落落磊磊」世阿弥「花鏡」より