蒼天に沈む
おや、マスター、我が主。どうしました?このキャスター、アルターエゴリンボに何か聞きたいご様子。
ははあ、道満のお話と来たか。なるほど、なるほど。これなるはアルターエゴ。しかしてキャスター、いえ、陰陽法師道満のお話となれば、なるほど、あなたが興味を持つのも些かも不思議ではない。なにゆえこの道満、悪逆の道に堕ちたるか、気にならないはずがない。眩いほどの正義、正義、正義。拙僧感動いたしました。
播磨に、道摩法師なる陰陽師一人おりますれば。あの安倍晴明と対を成す陰陽法師と語り継がれる者なれば。
ンンン、安倍晴明、晴明、晴明。拙僧が唯一にして無二に『憎む』もの!『嫌う』もの!
ああ、そうですとも、道摩法師であれば、人類悪になり得たであろうと拙僧は思うのです。ああ、無駄な混ぜ物などなければ、あのまま、あのまま!あの不死の身を得た蘆屋道満のままならば、人類悪にもなり得たろうに!
なぜ不思議に思うのです?拙僧は興味がなかった。人類などというものに、人などというものに、興味がなかった。だから人類悪になり得ぬと言われた。まさに正論。では蘆屋道満はどうか。あの者は最後まで晴明に執着した、憎んだ、恨んだ、嫌った!その秘術を奪い、地位を奪わんとした。まるで「ニンゲン」のように。まるで「愛する」ように!
なれば拙僧ではたどり着けぬ高みに道摩法師のままであればたどり着けたのでしょうとも。
そうそして。拙僧は我が秘術を破り、ここに我が身を召喚せしあなたを。
「憎んでおりますれば、嫌っておりますれば、恨んでおりますれば」
故なれば。この道満あなたを。
「好いておりますれば、愛しておりますれば」
*
あの日、そうあの日は抜けるように高い青空に、雲を散らした日でした。雲があれば青空ではない?ご指摘御尤も!しかしながら青空だったのです。風が強く吹いておりまして、雲を押しやる、そんな不穏な拙僧好みの青空でしたとも!
ああ、晴明。安倍晴明。あの勝負に勝った方が相手を弟子にするというふざけた内裏での大一番。なんと馬鹿馬鹿しい。我らの興味はそこにはなかったというのに!
十二の大柑子、十二の鼠。あれは非時香菓にございました。我らは勝敗を欲したのではない。永遠を欲したのです。弟子になろうと、なるまいと、首を落とされようとも、我らは既に非時香菓を手に入れた。不死の体を手に入れたのです。
そう、しかしながら不死の我が秘術、破ってもらって大いに結構!なにせそのおかげで、拙僧は死にました、そうしてその記憶を持ったままに「英霊」などという存在に成り果てたのです。
おや、怯えていらっしゃる?拙僧を呼び出したのはあなただというのに?
アルターエゴ、異星の使徒キャスターリンボはあなたの敵でした。しかしながら、それを下し、この「カルデア」に呼び出したのは紛れもなくあなただ。
「なれば、故なれば」
それこそをば拙僧は待っていましたとも。
ああ、もう蒼天もなにもない。ただ風が強く吹き荒び、雲を散らし、どこまでも白の世界が広がるここにて、ええ、ここにて。拙僧はあなたに下された。ならば拙僧はどこまででも、ええ。
「あなたにお仕えしましょう、我が主」
ああ、その美しいかんばせ、美しく白い首、なにせいずれは。
「我が物になるのですから」
そうでなければ、「英霊」になどなりませんよ。
そうでなければ、「召喚」になど応じはしません。
「その勝負に負けた者は、その者の弟子になる。故に拙僧はあなたをこそ主と仰ぎましょう」
そうして、いずれ、そのすべて、この道満が頂戴します。
「そうでなければ、釣り合わない」
ええ、この身はそのためにここに来たのですから、カルデアの「マスター」?
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道満のリンボである理由をずっと考えていられる。エコ。
2021/6/22
2022/5/6 サイト掲載