終焉
「ねえ道満、殺してくれる?」
「はて?どうしました、急に」
この手の戯れに付き合うのは、というよりもこの手の戯れを口にする御仁ではないような、と思いながら、ふとマスターの首に手を掛けてみる。拙僧に言うのがいけないのですよ?
「こうでしょうか?縊り殺せばよろしいか?」
カハッと彼女は息を吐いた。苦しげなそれに絡めた指を緩める。
「などと冗談ですよ」
「……ああ、そう」
そう言ったら彼女は首筋をさすって、それから笑った。
「本気だと思ったんだけど、道満なら」
「はい?」
言葉の意味に少し理解が届かず、思わず聞き返したら、玩具から興味を失ったような凪いだ目で見返された。相変わらず、笑顔のままなのに、凪いだ瞳で。
「じゃあ、いいや」
にっこりと、少女は笑った。
*
廊下で、誰かに問うていた。
『ねえ 、殺してくれる?』
その姿を何度も見た。そうして大概の「英霊」は「またか」と笑った。試しに一つ問うてみたら、「癖のようなものだ」と言われた。「遊びのようなものだ」とも言われた。
何という恐怖。
死への恐れも、惧れも、いや、憧憬さえも許されぬというこの、嘘の如き本当の話。
「そうでしょうとも。『人類』などという唾棄すべき種族の、最後の一人の死など、誰も許しはしないでしょう」
それどころか、一顧だにされぬそれ。
あの日指を絡めた首の細さと白さを思い出す。世界などというものを背負うにはあまりにも脆弱なそれを思い出す。
『ねえ道満、殺してくれる?』
声が耳の奥に響いた。諦めたような、声が。
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世界を救う対価。
2021/9/25
2022/5/6 サイト掲載