「道満!止まって!」

 バシャ、と血飛沫が飛ぶ。止まるはずがないと分かっていながら叫んだ自身がどこか滑稽だった。

「おお、これはご無礼を!拙僧何せ無位無冠の身ゆえ、行儀が悪く!」

 ぐしゅりと彼の長い爪がエネミーの胴にめり込んだ。

「道満!」

 もう一度叫んで走り寄ろうとすれば、後ろ手で制される。

「ああ、もうここには屍しかございませんのでね。マイマスターは大人しくしておられよ」
「だから……!!」

 あなたのその胴体に開いた風穴を、と思ってその制されたそれを振り切るように私は走る。触れた感触は血でぬめるのにどこか冷たくて、血の気が引いた。

「なんで、こんな、頼んで、ない」
「頼まれてませんからなぁ?」
「なんでそんな平気そうな顔で、そういうことするの、道満は!!」
「おっとぉ?貴女のサーヴァントだからと言っても許される雰囲気ではないような。行儀が悪いと申し上げたはずですが」

 そういう問題じゃない、と子供のように泣き喚いた私に、道満は笑った。

「でしたらひとつ種明かしをば。こちら式神にございますれば、本体はボーダーで蜜柑を食べている頃合いかと」
「え……?」

 ですから、と道満は続けた。

「帰りましょうか、マイマスター」





「全く、サーヴァントというのも楽ではないな」

 ボーダーからノウムカルデアへ、疑われぬ範囲で蜜柑など食して。
 それから。
 胴に開いた風穴を塞ぐ術式を練る。

「純粋にも程がありましょうよ、あの御仁は」

 はあ、と柄にもなく荒い息をついて、口に溜まった血を吐き出す。

「まあ、それも一興か」

 この身が朽ちることはないにせよ、座に帰るなど少々格好がつかぬ故、せいぜい行儀悪く生き残って進ぜましょう。

「何せ、貴女のサーヴァントですから」

 笑って霊体化する。この式神の如きサーヴァント一人に涙した女を思いながら。




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蘆屋渾身のやせ我慢。楽しかった。あの台詞好きなんですよ。行儀が悪く!

2022/4/24
2022/5/6 サイト掲載