美しいひと
「吾が首、欲しくはないか?」
茨木に問われて、俺は一瞬何を言われているのか分からなくなった。首?彼女の?
「幾千年経とうと変わらぬ欲のない男よ」
俺が押し黙った沈黙を肯定と取った茨木は、詰まらなそうに、それでいてどこかおかしげに、言った。
だけれどそれに俺はぽつり、と返す。
「ほしい」
口を衝いて出た言葉は、自分で言ってもおぞましいような、そんな気がしたが、眼前で女は笑った。
「くれてやると言ったらどうする」
「言わぬだろうよ」
戯れに、呆れた。呆れたが、どこか何かを期待している自分も、いた。
「やらぬがな」
ほら、やはり。そう思ってから、彼女の首が欲しい、と思う自分と、いらぬ、と思う自分がいるのが分かった。どうにも思考がまとまらない。
「お前がそのままでなければいらぬよ」
首と、胴と、そのすべての美しきと。それが揃わぬなら、要らない。
「吾を見ろ、綱」
首を獲れ、と言うように、彼女は言った。だから俺はそれに応える。
「見ているとも。ずっと」
ああ、お前の首など真実からは要らぬのだ。
「美しい、ひと」
その首も、胴も、腕も、角の一つさえ。
「損なうことは許さない」
誰にも。
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綱さんは腕を斬りこそすれ首は獲らなかったというのがすごく引っ掛かるというかそういう話。
2021/2/14
2022/5/14 掲載