優しい

 正しい国を作りたかった。上下はなく、万民が……

「息をする様に嘘をつくな、私は」
「どういた」

 これでええがやろ、と以蔵に言われて我に帰る。
 薩摩隼人を、一人殺したくせに、自分の理想のために殺したくせに、私は。

「ああ、これでいい」

 いいはずだ、きっと。
 私は気がついていたはずの何かにそっと蓋をした。





「先生は優しいですから」

 だから、あの日と、そうしてもう一度失ってしまった、私のために喪われた男に相対して言えば、彼は笑った。

「誰かのために、何かのために。それで思い悩むだけ、お優しい」

 違う、と叫び出したかったのに、喉がカラカラに渇いて言葉が紡げなかった。私は、君を。自分のために。

「誰かのためではない」

 やっとの思いで、絞り出す様に言った。田中君は首を傾げた。

「自分のためにやったんだ。自分のために、私は君を殺した!理想なんてない!ただ、自分の保身のために……」

 言葉に彼は笑った。ああ、いつもそうだ。私の傲慢な全てを、君は笑って許してくれるから、その優しさが、恐ろしくて、それなのに嬉しくて、羨ましくて。

「ご自分のためならそれはそれで嬉しいです」
「……は?」
「先生はいつも無理をなさる」

 ああ、いつもそうだ。そのために犠牲になったのは君なのに。
 君はそれを知ってなお、私を許して、笑って、認めてくれる。

「……どうしても、君に甘えてしまうな、これでは」

 いつだって、と続けたら彼は言った。

「いつでも、構いませんよ」

 君は嘘をつかないから。私の様に、嘘をつかないから。
 雫が一条、頬を伝った。

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先生の欺瞞なんてお見通しな田中君が好きだったりする。
2021/12/17
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