ウサギ日和・オオカミ

「……ん?」

 朝、目覚めて感じたのはどことなく形容しがたい違和感だった。
 明確に『これ』と言える訳ではないが、慣れた自分の体がどこか変容しているような、それが外的要因なのか、精神的なものなのか判然としない。ジジイの霊基に切り替わったのとも全く違う違和感には、だけれどもどこか覚えがあった。

「酒……は、飲んでねえな?」

 そうだ、言うなれば二日酔いに近い。酒を飲みすぎて寝ざめが良くないような感じ。このカルデアに来てからはそんなことはないが、新選組にいたころなら前の晩のせいで次の日の仕事に何となく身が入らないようなそんな感じ。
 そう思いながらそろそろと布団の隣に手を伸ばしてみる。スヤスヤ寝ている斎藤は、相変わらず治らないウサギの耳と尻尾のままで無警戒に寝ていたが、それが、どうしてか。

「……美味そう」

 なんだこれ。可愛いって思うことはある。斎藤可愛い、ウサギ可愛い、それはいい、ウサギじゃなくともいつもだから。だが、美味そうってなんだろうな。これだっていつも美味いけども。けども、もっと物理的に。
 なんてーか、こう、食ってみたいってなんだこれ。
 そう思いながら、なんとなく欲求に逆らえずにその耳を噛んでみた。

「ミッ!? 痛い!!」

 甘噛みのつもりだったのだが、派手に叫んで斎藤が跳ね起きた。あれ? 軽く噛んだだけなんだが、コイツこれ好きだったよな?





「あー、今流行っててねー、永倉さんも罹っちゃったかー」
「え……」

 その後、涙目の斎藤がこちらを見て更に絶叫したから姿見の前に連れていかれて、俺自身も絶句して、そのままマスターのところに連れていかれたら、タブレット端末を持ったマスターが平然とそう言ってきた。申し訳なさそうなマシュの嬢ちゃんが横にいるのが何とも言えない。

「永倉さんそれ、ニホンオオカミ? ただのオオカミ? シロオオカミっているんだ!」
「いや、それはいいんだが……」

 そうマスターに言われて自分の頭に手をやる。そこにあったのは確かにゴワゴワした耳で、犬歯は鋭くなっているというかほぼ牙だし、尻尾もあるし、これは犬というよりは狼という奴だろう、確かに。斎藤がウサギになったのと同じ感じで意思疎通もできるし素体は人間だから半獣化バグというやつなのか?

「えっと、僭越ながらこちらからご説明します。霊基の半獣化バグの保護をなさっている方の中で現在一時的な半獣化が流行していることが判明しました」
「そんな風邪みてぇな……」
「実際風邪のようなものでして……。元々の半獣化バグ、斎藤さんのような方の完全な解決法はまだ確立されていませんが、保護者の方の方は二、三日程度分の魔力消費で自然回復することが証明されています」
「え! ズルい! それはズルいよマシュちゃん! 僕は治らないけど新八はほっとけば治るってこと!?」
「すみません、斎藤さん、その通りです。そういう事情でして、永倉さんのそちらは二、三日で回復の見込みです。出撃やサポートからは外させていただきますので、お部屋で待機していただければと思います」

 そうマシュの嬢ちゃんが言っている間にもマスターがぴょんぴょんと尻尾辺りを弄ろうとするからぺし、とはたいてしまう。コイツ、楽しんでやがる……。

「ひどい! だって地元にキツネとタヌキはいたけど狼見たことなかったから! あ、永倉さんってキツネ村知ってる? 蔵王キツネ村!」
「知らんわ! 落ち着け!」
「壬生狼だけに狼になったって言ったら土方さん喜びそうだよね!」

 それに思わず大きなため息が出た。壬生狼だけに、な。狼、オオカミなあ……、と思っていたら不意に斎藤の悲鳴がした。

「みっ!? なっ!?」
「はい、そうです。オオカミはいけません。ウサギの天敵、捕食者になりますので、NFFサービスが保護して差し上げましょう。こう見えて同胞のウサギには優しいのです」
「アンタらもいい加減、斎藤で遊ぶのやめてくんねえかなあ……」

 敏腕秘書こと光のコヤンスカヤの姐さんが斎藤を引き摺って行こうとしているし、闇の方の姐さんはなんか餌付け用の菓子を用意してるし……。これ、案外非常事態だと思うんだが、平和だよなあ、ここ。

「やめ、やめてください!」
「ほら、大人しくしてくださいませ。一緒に来ないとオオカミさんに食べられてしまいますよ?」
「あんまりやってるとニキチッチの旦那と太公望さん呼ぶぞ」

 そう言ったら二人がこちらを見る。なんでこう、そんな目するんだよ。こええわ。

「ナガクラ様、あまり調子に乗らないでください。太公望様? あの勘違い道士の名前を出せば私がひるむとでも?」
「いや、そうじゃなくて」

 闇の方の姐さん怖いわ、相変わらず。

「それにですね」

 光の方の姐さんが重ねて言おうとした時だった。

「駄目だぞ、お前たち! 飼い主からそうやって無理やり引き離すのは、どちらにとってもいけないことなんだ!」

 わざわざ走ってきてそう言ってくれたニキチッチの旦那はいいんだが、飼い主……飼い主かあ……。そう思って、自分自身のオオカミの耳と尻尾、それから斎藤の耳と尻尾を眺めながら、俺は溜息をついた。





「新八いいなあ……二、三日すれば治るっていうし、それに」

 部屋に戻って、とりあえず休暇になってしまったからと思いながら寝台に座ってみれば、ぴょこんと隣に乗ってきた斎藤が尻尾に絡みついてみたり、耳を撫でたりしてみている。……正直に言えばやめてほしいんだが。

「狼、オオカミってなんかウサギより強いし、肉食だしカッコいい、いろんな意味でズルい……」
「そうかあ……?」

 そう言っててしてしと尻尾や耳を撫でてたりつついたりしていた斎藤が、しゅんと耳を垂らす。……可愛いんだが、今はやめてほしい。

「僕のは治らないって言うし、それに、ウサギじゃなんか不公平っていうか、カッコ悪い気がする……」

 ……そうか? 別に……。

「可愛いからいいだろ」
「だから! それが!」
「ウサギじゃなくても斎藤は可愛いからいいだろ」
「なっ!?」

 そう言ってピンと耳を立てると内側まで赤く染まったその耳を軽く撫でる。

「ウサギでもウサギじゃなくても、斎藤は可愛いからいいだろうが」
「やめっ、ちがうっ! 可愛いって言うな! カッコいいって言え!」

 必死に否定してきたが、そもそもウサギじゃなくても斎藤は斎藤だから可愛い。それもそうだが、今は俺もオオカミなワケで、捕食対象のウサギにぺたぺたすり寄られたり触られたりしたら食べたくなるのは道理なのではないだろうか? それに斎藤はウサギでも可愛いから食べたくなるのは当たり前のことだ。
 そう思いながらよく躾けた耳を撫でていたら、口ではカッコいいがどうとか言っていたがとろんとした顔でこちらを見てくるのだからやっぱり可愛い以外ないだろう、と思いながら、マシュの嬢ちゃんが言っていたことを思い出す。

「なあ、俺としてはおまえのことも心配だし、早いところ戻っちまった方がいいと思うんだが」
「ん?」
「二、三日分の魔力消費、って言ったか? それで治るって話だったな」
「うーん、そんなこと言ってたね。宝具撃つ? 怒られるよ?」

 とろとろとそんなことを言ってきた斎藤をぽすっとベッドに降ろす。

「ん?」
「あー、でもなー」
「??」

 せっかくオオカミになったんだし、ウサギなんだし。
 なんかいろいろ勿体ない気もする。
 ていうかどうせ二、三日で治るんなら何してもいい気がしてきた。早く治した方が心配がなくなるのはそうなんだが、どうせ斎藤の方は治らないって話だったし。
 それに、俺は魔術師じゃないからよく知らんけども現代の認識的にだが。

「精液ってどんくらいの魔力濃度なんだ?」





「んっふぁっ……んっ……」
「っ……」

 ちろちろと赤い舌でこっちのそれを舐めてくる斎藤は、適当に理由を言ってみたらあっさり騙されて『新八の役に立つなら』とか何とか言って、無警戒に口淫……フェラとか言ったか? そういうことをやっている状態だが、この無警戒さはウサギ特有というか、ウサギになってアホになっているから、とか必死に気を逸らそうとするが、ピコピコ揺れる耳も、口淫自体がウサギになる前よりもつたなくなっている分、幼いというかなんというかなそれも、なんかこう。

「やべえことしてる、感じが……」
「?」

 上目遣いでこちらを見て、それでも咥える度胸はないのかぺろぺろと舌を這わせるそれに、というかそれ以前に、斎藤に耳や尻尾を弄られて既に勃っていたのがほんっとうにどうしようもねえな、と思いながらも、オオカミだしと意味不明な言い訳を自分自身にしながらウサギの耳を撫でる。

「ほら、ちゃんと咥えろ」
「やらぁ、こわい」
「それはそれで可愛いからいいんだが……食っちまうぞ?」
「みっ!?」

 そう言ってみれば動物的な恐怖なのか、ぴくんと震えて舌をひっこめた斎藤がこちらを見上げてくる。怯えさせる気は無かったが、軽く犬歯が見せてみた。犬歯というか牙。ていうか斎藤よりも症状酷くねぇか? だってこれ元は歯だろ?

「食べないで! ちゃんと、するからぁ」

 泣きそうな声で言ってきた斎藤が、本当に涙目で軽く唇を開いてこちらを挟んで咥えてくるから、なんかもう、オオカミのままでもいい気がしてくるな、これ。

「ふっ、んぁっ、んっ」
「はっ、ウサギの口ってのも悪くねえな」
「んっ、っやらっ、んあ!」

 真っ赤な顔でぽろぽろ泣き始めた斎藤が苦しくならない程度に気をつけながら適当に動かす。それでも苦しいことは苦しいだろうが、と思ったが、相変わらず斎藤可愛い。可愛いし、何よりこういうことさせると過剰なほどの奉仕精神っていうかそういうのはもとの気性も躾もあるだろうが、少し心配にもなる。

「も、いい」
「れも、まだ」

 ぴくぴく動く耳のままそう言ってきたが、流石に口の中だの顔だのに出す訳にはいかねぇし、と思ってそう言ったが、上目遣いでまだそのままにしようとしてくる斎藤の耳をこねれば、ぴくんと緊張が取れる。性感帯というか、躾けておいて良かったというか。

「んっ?」

 その隙に自身をその小さな口から引き抜けば、万年発情期のポヤポヤした顔のウサギがこちらを見上げてきた。

「れも、出さないと、治らないって新八がいうから……?」
「だからちゃんとヤらせろ」
「んみっ!?」

 そう言ってそのまま斎藤を組み敷く。あー、捕食対象に欲情するってなんか倒錯的でいいな、これ。

「あっ、やら、やら!」
「いやとか言っても食うからな」

 震える青ウサギをそのまま縫い付けてみれば、いつも以上に支配欲が満たされるのは動物的な本能だろうか?





「ふっぁっ、みっあ……やっ」
「わり、ちょっと無理」
「んっ、まって、も、あっ」

 ……結果から言うと、生態的な問題があった。大いにあった。個人的にはいつも通り斎藤とヤるつもりだったし、ヤってるつもりだったんだが。

『やらぁ……』
『やだじゃないだろ』
『きもち、いからぁ、も、イっちゃ、う』
『イっていいから、ほら』
『ひうっ、みっ、あ、やめ、あっ……!』

 適当に扱いた性器から白濁を零してとろとろと力が抜けた割に、後ろは締め付けてきた斎藤につられるように絞られて、こちらも斎藤の胎内に射精してしまったのはいいのだが、いや、ナカに出したのは問題なのか? 俺と斎藤の場合はいつもだけども……サーヴァントだし気にするだけ無駄だろ、と常日頃から最低なことを考えている訳なんだが、問題はそこではなかったのが問題だった。

『でてりゅ、しんぱち、の……みう……』

 ウサギだから体力落ちてるし、と思って一回でやめようと思っていたし、ついでに言うと俺だって出したことには違いないんだから、と思ったんだが。

『……わり』
『……?』
『萎えねえわ、オオカミだからだと思うんで、抜かなくてもいいか?』
『ミッ!?』

 生態的な問題なのか、斎藤が可愛いからなのかは正直分かんねえけども。





 そういうワケで、確実に孕ませるため? なのか知らんし、俺オオカミじゃないから事情が分からないんだが、挿れっぱなしで何回出したか分からん状態になっていた。斎藤の方はもう勃ってないけども後ろだけで快楽を拾っているらしく、上気した顔と掠れてきた甘い声で鳴いているからもう何が何だかわからないし、それにしたってこいつのナカ気持ちいいな。

「しんぱち、も、むりぃ」
「あー、寝ててもいいぞ?」

 睡姦の趣味とかないけど、と思ったが、何だかんだこれ以上は斎藤付き合わせるのも悪い、と思ってもなんか抜けねぇし。二、三日とはいえ面倒がらずにオオカミの生態くらい調べればよかった……いや、実際の生態に一致するとも思えんのだが、耳だの尻尾だので悦んでるウサギ見てると絶対違うと思うから。

「らって、しんぱちのことなおすって言ったのに、まだ、治ってない……んっあっ、やら、そこやら、また、ふぁっ! でてりゅ、や、またっ!」
「あんま、可愛いこと言うな」
「やら、あつい、も、みうっ! しんぱちの、いっぱいで、も、わかんない!」

 必死に言うウサギの斎藤に、こんだけやったら流石に孕むんじゃねえかな、とか思っちまうのはこっちも思考が獣になっているからかもしれん。そう思いながらもう何度目か分からない射精をしたら、やっとなんかスッキリして、やっと抜けそうな気がして抜いてやったらこてんと斎藤は意識を失う様に寝てしまっていた。限界だったのだろう。

「……はあああああああ……。やらかした」

 ……流石にいくら馬鹿だの無軌道だの周りから言われても気にしないとしてもだ。流石に俺でもこれは。
 性器を抜いたことで入りきらずに零れたその白濁と、そもそも零れていたドロドロのそれに、あまりにもやりすぎたし時間もすごいヤってたような気がして、やっと冷静になってきて、すやすや寝ているが、少し顔色が悪く見える斎藤の耳や尻尾の毛並みを整えつつ、風呂に入れてやんねえと、とぼんやり考えた。





「治ってる……」

 その後、斎藤を起こさないように湯浴みさせて、後始末をして寝かせて、俺は俺で疲れていたのもあったから、風呂に入って横で寝て起きたら、尻尾やら耳やらは綺麗に消失していた。

「……」
「んみっ!?」

 起こすつもりは……あったから言い訳はしないが、斎藤のウサギの耳を噛んでみたが、これもいつも通り、人間の歯で噛んだだけの内容だ。

「あれ? 治った?」

 寝起きのぼんやりとした顔で斎藤が言ってきたからぽんぽんと撫でて礼を言う。

「おう。ありがとな、治ったみてぇだ」
「ん。新八がオオカミだと、いつ食べられるか分かんないから……いつ食べても、いいんだけども……その、ちょっと困るから」

 ……コイツ。

「普段とオオカミとどっちが好きなんだよ」

 思わずそう意地悪く言ってみれば、斎藤はフルフルと耳を震わせて言った。

「うるさい! ど、どっちもしつこい! どっちも、す、すきだけど!」

 ……だめだ、むり、可愛い。




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2024/8/19