白たぬき捕獲計画書

 幼馴染、というか近所のクソガキの斎藤と、今日も遊んでやっていた。
 斎藤のご両親は忙しくて、よく斎藤を預かることがあって、ていうか5歳も離れていると、姉貴みたいな感じなのか? 知らんけども。うちも両親は学校から帰っても家にいないけど、無駄に広いからうちでままごとしているが、外で遊びたい年頃だろうによくついてくるわ。

「たぬきー、しんぱちはたぬきー!」

 ……だからってこれはひどい。ままごとで小学生にたぬき認定された。
 でも言い返すと何倍にもして返してくる、このクソガキ……

「はいはい、たぬきたぬき」

 どうせ俺は太ってるよ。悪かったな。でもこんなに簡単に年上の女に太ってるとかたぬきとか言うと、いつかコイツ痛い目見るぞ。ていうかスケコマシになるかもしれないが、いつか刺されろ!

「たぬきーたぬきー、白たぬきー!」
「はいはい、たぬきたぬき」

 あー、こんなガキにいつか刺されろ、とか思ってたらなんか悔しい。でも気にしてんだよ、だって別に標準体重なのになんでこんな、むちっと……自分でも言いたくないけど、こう、脂肪の付き方が嫌なんだよ……
 気にしてんだぞ、こういうぷにっと胸とか二の腕に肉付いちまって。でも何回も言うけど標準体重だし、道場も最近行ってないから部活以外ではあんま運動しねーし、食い過ぎてもいねーのに。

「ぼーくーのー、しろたぬきー!」
「変な歌歌うな!」
「ぼくのじゃない!?」

 なんでそんなショック受けてんだよ……

「斎藤のたぬきじゃありませーん、永倉家のたぬきでーす」
「……え?」

 ばーかばーか、少しは傷つけ。

「血統書つきの白たぬきだぞ、敬意を払え!」
「な、な、なんで! ぼくのしろたぬきなのに!」

 本気で悩みだした斎藤に、一応言っておく。

「じゃあ頑張ればいいんじゃねぇの」
「……わかった。がんばる……」





 永倉の大学進学が決まり、一人暮らしをする、と聞いて斎藤が動揺した時には、同じ都内なのに部屋に荷物を運び入れたあとだった。

「新八、どっか行くの?」
「ん? 一人暮らし。たまに遊び来いよ」

 笑った女子高生は永倉新八、斎藤一の5歳年上で、近所の姉のような……斎藤にしてみれば初恋で、今も大好きな相手だった。

「なん、で?」
「なんでってなあ……大学だし、一人暮らししてみて、自炊とかバイトとか、大学含めたスケジュール管理とかもできるように……うわっ!」

 永倉の言う難しいことは、まだ中学生の斎藤には分からなくて、ドンッと抱きついて抱き締めてしまう。

「僕のなのに!」
「ん?」
「新八は僕の! 僕のなのに!」

 必死に言った斎藤の淡い恋心は、流石に永倉も知っていて、中学生になって急に伸びた背の高い斎藤をだから抱きつかれたそのまま抱き留めた。

「部屋、いつ来てもいいから」
「ヤダ!」
「来てくんねーの?」
「いま、いく」

 そう言った斎藤の我儘も、良いだろう、なんて癖で永倉は甘やかすように、大した距離でもないのに一人暮らしなんて、と言われたのを思い出しながら、言った。

「いいぜ。だって」

 だって、初恋のこんな可愛くもない女の部屋に来るなんて、これっきりだろうから。





「んむっ」
「ふっ、あ……」

 ふんらわりした永倉の胸や体躯を抱き締めながら、一人暮らしの狭い部屋で斎藤は必死に永倉に口付けた。
 やり方が分からないのは永倉もそうだったようだが、それは斎藤にとっては嬉しいことで、見様見真似で舌を絡めて、呼吸を奪って、舌先を甘噛したらびくんと永倉の体が跳ねる。

「んっ……」
「いや?」

 問い掛けた斎藤に、ふるふると首を振ったが、永倉は自分は何をやっているんだ、と頭のどこかで冷静に、いや、冷たく思っていた。
 確かに斎藤は可愛い弟のような存在で、中学生になって成長した彼は男らしくもなって。
 ずっと姉を気取っていたのに、結局斎藤が男に見えるなんて卑怯だと思ったら、悔しくて。

「くち、あけて」

 拙い斎藤の言葉に、永倉はぼんやりそんなことを考えながら小さく口を開けた。

(だめ、なのに)

 斎藤は、これ以上、

(俺みたいな、馬鹿に関わらなくていいのに)

 吐息が混ざって、唾液の絡む音がして、でもきっと。

(これで終わりだから、見逃してほしい、なんて……)

 きっと斎藤には綺麗な可愛い彼女が出来て。
 そうして初恋の女とキスしたなんて忘れて。

(さみしい、なんて)

 やっぱり馬鹿みたいだと彼女は思いながら目を閉じた。





 ピンポンと長閑なチャイムが長閑な休日に鳴って、荷物? と永倉が観ていた映画を停めて玄関に行けば、ポスっと身長の高い男に抱き留められた。

「新八」
「え……?」
「いい子にしてた?」
「さい、と?」

 永倉が言い掛けたところで、ずいぶん、それこそ中学の頃よりも背が高くなって、子供と大人の間のような、それでも背が高く体躯も大きくなったような斎藤は、そのまま部屋の中に入って、後ろ手で鍵を掛けた。

「なん、で」

 なんで、という言葉には何重もの意味があった。
 なんでここに来た、とか、なんで部屋の場所忘れてない?、とか、もっと言うなら、こんな、と思ったら、そのまま部屋に戻ったのに、永倉はぽろぽろ泣き出してしまっていた。

「あ、の……何しに来た」

 それでも出てきた言葉はひどくぶっきらぼうになってしまって、昔、それこそもう5年も経つだろうか、そのころにキスをした部屋だ、と思ったら、そんな感情のままずっといた自分がひどく惨めに思えて、こんなふうに、きっと高校生でもなく、大学生になっただろう斎藤は、じゃあ自分の家の会社みたいなところでOLになって、ただ毎日書類を作って、あいさつ回りをしているそれは、どうしようもないほど馬鹿みたいな自分は、と思ったら、涙が止まらなくなった。

「新八の部屋だから、来た」

 簡潔な答えに、永倉は当たり散らすように、どうしたらいいか分からないままに抱き留めた斎藤の胸板をドンと叩いていて言う。

「こんな、こんな馬鹿な女忘れていいんだよ! 思い出だけで十分だから!」
「新八のくせに生意気なこと言わないでくれる?……新八馬鹿だから生意気なのか」
「生意気なのは、おまえだろ!」

 そう精一杯の強がりのように彼女が言ったら、そのまま斎藤はノートパソコンで観ていたらしい映画の画面を消して、そうしてパソコン自体の電源も切ってしまう。

「なに、やって?」
「何そんなにこっち見てんの? イケメン過ぎてビビってんの?」
「違うわ! ガキが粋がんな!」

 叫んだ永倉に構わず、そのまま手に持っていたビニール袋を床に置いて、ラグの上で斎藤は永倉に口付けた。
 ……この部屋であったいつかよりも高い背で覆い被さるように、そうして呼吸を忘れさせるように。

「ふっ、あ……」
「粋がんな、とか言ってるワリには相変わらず慣れてねーな」

 唇が離れて、つうと唾液が流れたら、それを乱雑に拭って言った斎藤に、永倉は今度こそ本当に泣き出してしまう。

「なれて、ない! 斎藤と、ここでキスしてから、してない!」

 泣きながらそう叫んで、あれは、あの時は自分が馬鹿だったのだ、と永倉はひどく寂しいような、悲しいような気分になって、だれけど泣いている自分があまりにも馬鹿らしくて、そう言っていた。

「キスなんてしていない! 慣れるわけない! なんであの日、泣いていたのは斎藤の方で、だから、仕方ないから、だってどうせ忘れるから、忘れられて捨てられるのは俺の方だから、ずっと!」

 止め処なく落ちる言葉を遮るように、それでも甘えるように、叫ぶ永倉の胸元にぽすっと斎藤の頭が載せられた。

「……え?」
「あー、やっぱふかふか。新八のこれ好き」
「んにゃ?」
「……猫かよ」

 胸に顔をうずめるようにしながら、器用に服を脱がせて、ブラジャーのホックに手を掛けて、今度こそ露わになった大きな胸にそのまま斎藤は口付けた。

「やめ!?」
「僕さ、けっこう考えた」
「ん?」

 それでもそう言われれば甘やかしてしまうのは自分の悪い癖だ、と知っていたのに、斎藤が悩むような、その弟のような少年が……今はもう少年ではない彼がそういう声を出すと、どうしても年上ぶってしまう自分が嫌だ、なんて思いながらそのまま斎藤の手でさらけ出されて、そこに顔をうずめながら言う斎藤を永倉は抱き留めてしまっていた。

「ん、ありがと。あの日さ、新八とキスして、それで終わって。僕も高校行って、彼女出来て、何人か」

 その言葉にズキリと抉られたような痛みを覚えながら、そのまま抱き留めた斎藤に、嫌味のように永倉は言う。

「どーせ、俺みたいな馬鹿たぬきと違っておまえはモテそうだもんな」
「うん、でもいろんな子と付き合ってみて、何回かそーいうこともしたけど」
「……」

 それ以上言うな、とか、それ以上やめろ、とか、言いたいことは山ほどあった。わざわざこんなところでこんなことをしながら自分の女遍歴の自慢なんてずいぶん趣味が悪い、と。
 あの日、年下の我儘に付き合うように口付けだけで終わらせた日が忘れられなかった自分が惨めだ、と思いながらパッと斎藤を離してしまい、露わになった胸を隠そうとした永倉に、斎藤はもう一度口付けて、それから胸に、腕に、体に触れてもう一度離れた身体を抱き寄せる。

「だけどさ、そういうことしたり、女の子とキスするたび思い出してさ、新八のこと」
「……は?」
「だからこういうのって、なんていうの? 精神的浮気? その子たちにも、そもそも新八にも悪いなって考えたら、じゃあやっぱ新八のせいじゃんってなった」
「おれの、せい?」
「責任取って。僕の初恋だし、あんなことされたら……ていうか、新八が一番好きなんだから、責任取れよ」

 そう言って、斎藤はそのまま永倉を抱えあげて、ソファの上に置いていた。





「ひうっ、にゃっんで!」
「責任取れって言っただろ。このふかふかが忘れられなくて、こういうキスの味を覚えさせたのは淫乱な新八だろ?」
「ちがっ、どこで、覚えて!?」

 彼女の体をまさぐって、ふわふわと胸や腹を撫でたり揉んだりしていた斎藤に抵抗しようとすれば、そのまま理不尽なことを言われて、強く動きを封じるように触られる。
 その未知の感触に身を捩っていたら、今度は縫い付けるように圧し掛かられて、そのまま撫でたり口付けられたりして、永倉の体がこわばる。それに気を良くしたのか悪くしたのか、斎藤はふにふにと胸を撫でたり押し込んだりしながらまた口付けた。

「ひう!?」
「感じてるならいいけど、こっち見ろ」
「んあっ」
「目、開けろ」

 口付けた後にそう言われて、水のたまった目を薄っすら開けば、案の定涙が零れてしまう。それを掬うようにべろりと頬を舐められて、とろんとした顔のままの永倉は、今の状況がなんなのか分からないままに斎藤に言われたままに彼を見返した。

「そう、いい子」
「こども、扱いすんな、ガキ」

 真っ赤な顔でゆっくりそう言ったら、また口付けられる。今度はもっと優しく、体に触れられたまま、呼吸を奪うようなそれ。

「んっ、あっ、やら」
「喋んな、怪我するぞ」
「んあっ、らって」

 そうくちゅくちゅと吸い付いたり離れたりする唇と、体に触れる手の感触に耐えかねたように荒く呼吸をする永倉の舌先を噛んでみれば、何かびくびくと身体が跳ねたから、そのまま甘噛みした舌先と唇を離せば、涙目のままで言われた。

「それ、やらぁ……」
「嘘ばっかだな。気持ち良かったんだろ、噛まれて感じるこのドM」
「ちが、ちがう……しらにゃい……」

 何を言われているのか分からないが、いつも通り馬鹿にされたのだ、と思って知らないと言えば、斎藤の顔が猟奇的に見えて、そうして彼は口角を上げる。

「そうだな、新八は僕以外知らなくていい」
「んあっ?」

 そう言ってから、斎藤は買ってきたらしい先程置いていたビニール袋を引き寄せて、少しそれを探っていた。その様子をぼんやりとした思考回路で見ていた永倉には、それが何だか分からない。そうしているうちに、とろりとした液体の感覚が体にした。

「ひうっ!? つめ、たいっ!」
「すぐあったかくなるから。動くと怪我するぞ、今度こそ」

 そう言われてふとその冷たいぬめった感覚の所在に気が付いた永倉は、ばたばたと足を動かして、身を捩ろうとしたが、ずいぶん力の強くなった斎藤に抑えつけられて、そのまま固定された急所のそこに触れられる。

「やだ、やめろ、やめて!」
「騒ぐなっていうか動くな。怪我したくないだろ……ていうか、ローションなくてもどろどろじゃん? 気持ち良かった?」
「ちが、ちがう! はじめて、らから、さわんな! やめて、やら!」

 必死に叫んで抵抗しようとする彼女に構わず、指を一本入れてしまえば、驚いたように今度こそ永倉の動きが止まって体がこわばったから、狭い、と思いながらもそのローションと愛液のおかげで滑りはいいそこをゆっくり刺激して拡げながら、斎藤は押し倒した彼女の耳元で言った。

「そう、いい子。大人しくしてればすぐ良くしてやるから」
「やら、へん、いたい」

 必死に言った彼女に構わずぐちゅ、と卑猥な音をさせて指で中をなぞっていれば、未知の感覚にびくびくと永倉の体が震える。

「んっ、あっ……そこ、やらぁ……」
「ああ、ここがいいのか?」
「ちがっ、やめ、もう、やめ、ろ!」

 そう言った永倉の体が、その一点を軽く押し込めば力をなくしたように抵抗を止めたから、ぐちぐちとそこを虐めて、それから斎藤は軽くローションを垂らした指を増やしてそのナカを探った。

「ふあっ、やら、わかんない! んぁっ、やら、へんに、にゃる!」
「分かんないじゃなくて、気持ちいいって言うんだよ、馬鹿」
「んあっ、やら、さいと、の指……」
「指じゃ嫌だとか変態。でも慣らさないと痛いからな」
「ちがっ、あっ、やぁ、やらぁ……」

 嬌声を上げて、それでもぼんやりと身を任せて蕩けた顔でいる永倉に気を良くしたようにぐちゃぐちゃと今までより激しく指を出し入れすれば、びくりと反応した彼女は今度こそ自分の喘ぎ声に気が付いたようで、必死に口に腕を宛ててそれを噛むから、くぐもった声が小さく聞こえた。

「おい、馬鹿」
「んっ、んんっ! あっ、だめ、だめらから!」

 首を振る彼女の腕を片手でどかせば、くっきり歯形が付いていて痛々しい。そうまでしているのに、軽く腕を動かしただけで大した力も入っていないそれに、斎藤はわざとらしく溜息をついた。

「馬鹿はやっぱり成長しない馬鹿だな」
「んなっ! ばかって、いう、な!」
「あ?」
「ひうっ、やら、やめて!」

 抵抗しようとした体を抑えつけて指を増やせば、体からまた力が抜けて、そのまま喘いだ永倉に、斎藤はぐちゅぐちゅと指を動かして、そうして軽く口付けた。

「んむっ」
「色気ねーな」
「らって、わかんにゃ、い!」
「気持ちいいことしかしないから、大人しくしてろ」

 そう言って軽く指を動かして、先程見つけた場所を撫でて、そのままもう片方の手で歯形の付いてしまった腕をいたわるように撫でたら、今度こそ永倉の身体が跳ねて、派手な喘ぎ声がした。

「やら、そこ、らめ、へんに、にゃる、なんか、うぁっあっ、やめ!」
「イっていいから、ほら」
「やら、あっ、さいと、こわ、こわい! あっ」

 そう言って抱き着いたまま、一瞬こわばってからだらりと力の抜けた身体を抱き留めて、斎藤は初めて達したのが怖かったのだろう彼女をいたわるように、それでもその痴態を楽しむように撫でまわす。

「んっ、な、に?」
「気持ち良くなったってだけ」

 短く応えたら、相変わらず抵抗しようとするのにとろんとした顔の永倉に、斎藤はまた買って来た袋を探って取り出したものを確認して、そのまま手早く封を切った。

「ん?」
「流石に生はな」
「……え?」

 ぼんやりと聞き返した永倉に、斎藤は猟奇的に、獲物を追い詰めたように笑う。

「さっき気持ちいいことだけって言ったが、少し痛いぞ」
「んあ? な、に?」

 まだ初めて感じたそれにぼんやりしていた永倉の、拡げて慣らしたそこに、斎藤はぐちゅり、と卑猥な音をさせてそのまま自身の先端を宛がった。

「え? らめ、むり、はいん、ない!」
「ダイジョブ、ダイジョブ。新八淫乱だから、すぐ良くなる」
「うそ、むり! やら、さいと、うあ、やめ、て!」
「ここまで来てやめてはないだろ」

 そう言って軽く埋め込んだ自身を更に奥にやるように抑えつけた永倉に言い聞かせるように彼は言った。

「それに、新八は僕のものなんだから」
「ひにゃっ!?」
「はは、そんなに被虐趣味だっけ? 僕のものだって言われて気持ち良くなってんの?」
「ちが、ちがっ、ひうっ、あっ」
「ゆっくりやるから、ちょっと痛いだろうけど」

 そう言ってぐちゅ、と腰を動かせば、「ひっ」と喉から絞り出すような悲鳴が永倉の口から上がった。

「まて、痛い、いたい、いたい、やめて!」
「うん、分かる。痛いよな、血、出てる」
「やめて、やら、やめて! さいと、だめ!」

 必死に言い募る永倉の太ももに、少し色の濃いような血が流れてきて、それを通り越して自身を埋め込んだ感触に、本当に初めてなんだな、なんて悠長なことを考えながら、なだめるように頭を撫でたり、頬を舐めたりしていたら、唐突に彼女は泣き出してしまう。

「なに? そんなに痛かった?」

 ごめん、と言おうとして動きを止めた斎藤に、悲鳴のような、泣き叫ぶような永倉は声で泣きながらしがみついてきた。

「ちょっと、待て、そんなに引っ付いたらもっと痛くなるから、ちょっと!」
「ごめん、ごめん!」
「……は?」

 謝るのはこちらでは、と思った斎藤に構わず泣き叫ぶ永倉をなだめるようにその珍しい白とも銀ともつかない柔らかい髪をなでたり、泣いているその目許を撫でたりしていたら、それでも泣き止まない彼女は叫ぶように言った。

「らって、斎藤のこと、好きで、あの日だって、キスして、子供に、手ェだして、そのくせ、責任も取れないのに、ずっと、ずっと!」
「なに、言って……?」
「斎藤、悪くないから、ずっとこんなことして、ずっと思い出ばっかに、縋って、ずっとずっと! 捨てて、いいから、ほんとに、悪いのは、俺だから!」

 ごめんなさいとうわ言のように言った永倉を抱きすくめて、斎藤はそのままなるべくナカが動かないように気を付けながら、それでも苛立ちと嬉しさの間のような感情で言っていた。

「あのさぁ……」
「んっ、やだ、捨てていいから、今だけで、いいから!」
「捨てるもなにも、責任取るもなにも、あん時部屋でキスしたの忘れてないのはこっちもそうなんだけど? ていうか、新八のこと好きになったのこっちが先なんだけど?」
「らって、こんなの、面倒くさい、らけで、」
「黙れ」
「んっ」

 イライラと、それでもどこか嬉しくて、そのままキスで口を塞いでしまって、斎藤は考える。
 一回キスをしただけで終わったのは、もう5年近くも前の話だろうか。
 あの日の彼女の年齢に追いついただけ、彼女も先に進んでしまって、そうしてその間に何人かの誰かと付き合ってはいた。体の関係だって、高校生にしてはませていたかもしれないがあった。
 だけれど、やっぱり初恋も、彼女の柔らかい肌も、キスをした日のことも、そうして何より、ずっと優しかった憧れのような彼女が忘れられなくて、その度にその時に付き合っていた相手にも、そうして永倉にも悪いことをしているような、そんな気がしていた自分は、じゃあ、こんなことを言う彼女に何を言えばいいのだろう、と。

「捨てるワケないだろ、馬鹿っ八」

 唇を離して、そのまま軽く腰を動かして奥に自身を進める。

「ひうっ、ま、って」
「待たない。だってずっとこうしたかった」
「んっ……」
「僕はガキで、ずっと新八のことが好きでも何にも出来なくて、あの日やっとキスできたのに、すぐに行っちまって、それでやっと追い付いたのに、なんで捨てるんだよ」

 そう言って緩く抱き留めたら身体は白く、だけれど白いからこそ薄紅に染まった全身を抱き留めて、斎藤は呟くように言った。

「やっと捕まえたのに」
「ひっ、あっ、ちが、すて、ていいか、ら……!? っんぁっ、いたい、やめ!」

 捨てていい、と言われた瞬間に、たくさんの記憶と、目の前の捕まえた大好きな女が重なって、斎藤は加減もせずにぐちゅっと中を掻き回した。凶暴なほどのそれに、痛いと言いながら泣き喚くように身を捩った永倉の腰を捕まえて、そのまま彼は加減もせずに欲情を叩きつける。

「今更捕まえたもん捨てるほど、僕も優しくないんだよ。それにな」
「んあっ、にゃっ、んでっ! やら、やら、まって、んっ、そこらめ、らめらから!」

 快楽を拾い始めた身体に、軽く笑って斎藤は言う。

「捨ててなんて偉そうなこと言う権利、新八にはないんだよ。僕が捕まえたんだから、今日から……ていうかずっと、おまえは俺の白たぬきなの。ちゃんと言うこと聞くように調教しねぇとな?」
「やめっ、ひうっ、やぁだぁ……きもち、きもちいからぁ……!」
「捨ててだの言ってるくせに、初めてのくせに、男のぶっこまれて善がってる淫乱たぬきはちゃんと躾けておかねぇとな?」
「にゃんでっ!? さいと、こわい、やら、こわい!」

 快楽を拾いながら、それとは違う恐怖のような生理的な涙をぽろぽろ流して、怖いと永倉が叫んだところで、やっと斎藤は自分のやっていたことに気が付いたように、良いようにしていた永倉の体を軽く撫でて、動きを止めた。

「……ごめん」
「んっ?」
「ちょっと、嬉しくて、頭来て」

 相反するようなことを言って、それから優しく自分よりも背の低い年上の女の頭を撫でて、ぶつけていた腰をゆっくり引くように、それでも体は繋げたままで動きを止めれば、泣いていた永倉が不安げに見上げてきたから、斎藤は笑って口付けた。

「新八のこと捨てたりしない。ごめん、ずっと好きだったのに、追い付けなくて」
「さいと、は、わるく、ない」
「怖くない?」
「ん」

 ゆっくり頷いた彼女に満足したように、だけれど斎藤は確認するように訊いていた。

「動いてもいいか?」
「ん、ゆっくりが、いい」
「分かった」

 そう応えて、ゆっくりと胎内を暴けば、今度こそふわふわしたような蕩けた顔の永倉が何度も顔に口付けてきて、ゆったりと可愛らしい声を上げるから、斎藤は自制が効かなくなる、と思いながらも言ってみる。

「煽ってんの?」
「んっ、ちがう、あっ、やっ、さいとうの、きもちいから、あっ、ごめん」
「何に謝ってんの?」
「はじめて、なのに、さいとうの、すき」
「……」

 これで本当に初めてだろうか、と斎藤はふと考えてしまう。いや、でもさっき処女膜的なもの破った跡があったし、そもそも初めてじゃなかったら相手を殺さなきゃならないし、と。

「殺人はなぁ」
「ふぇ?」
「ほんとに初めて?」
「さいとう、いがい、しらない」

 そう言って抱き着いてきて、ナカも絡みつくようになった永倉に、斎藤はもう我慢も自制も馬鹿らしい、とぐちゅっと奥までそこに自身を埋め込んで動かした。

「ひぁっ!? きゅうに、は、らめ!」
「駄目、とかどの口で言ってんだ。こんなに気持ち良さそうな顔して」
「んあっ、さいと、も、いっぱいらから!」

 びくびくと震える体と、収縮する胎内に、これはもう何度も達しているのに止まらなくなったやつだ、と思いながらも、初めてでこれなら、と斎藤は言ってしまう。

「調教し甲斐、あるな、コレ」
「んあっ、や、また、ひうっ、にゃっ、も、わかん、ない!」
「何回でもイっていいから、この淫乱狸」
「やら、ばか、ちがう!」
「どこが、だよ!」

 流石に余裕がなくなって、そう言ったところで、またきゅうっと締まったそこに、もう無理だと思って斎藤もゴムの中に精液を吐き出していた。

「あっ、うにゃっ……」
「猫かよ……いや、たぬきな、白狸」
 その薄い膜越しに感じた感触に、とろんとした顔で応じた永倉にそう言って、斎藤はずるりと性器を引き抜いた。





 ゴムを縛って捨てて、自分の体を拭いてそのまま風呂場に連れて行こうとしている斎藤に抱き着いて、永倉は小さく言ってみた。

「あ、の」
「なに?」
「ほんとに、はじめて、だし……その……」
「ごめんとか言ったらこのまま叩き落とすからな」
「ちがっ!?」

 言い差した言葉を止めてそう言えば、笑った斎藤はそのまま浴室の方に歩いていくから、今度こそ永倉は上の方にある彼の唇に口付けてみた。いつかのように幼い口付けに、斎藤はゆっくり応じて笑う。

「淫乱白たぬきちゃんの世話と躾は大変だなあ」
「そういう、こと言うな!」
「だって僕のだし」

 ずっと、と言われて真っ赤になった彼女に満足したように、斎藤は柔らかな肌を撫でた。




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2024/3 作成
2024/7/31 掲載
「白たぬき捕獲計画書」という頭の悪いタイトルの通り頭の悪い内容の話にお付き合いいただいた結果本になってしまったのですね。はじめちゃんの思考回路がだいぶ頭悪い。
これはその一話目ですが、永倉さん♀がだいぶ乙女だなあと思いました。白たぬきちゃん可愛いね。
ジューンブライドの紙使いたくて本にしました。楽しかった。まだもう少し頒布しているのでご興味を持っていただけましたら詳しくはそちらをご覧ください。
設定やイラストでかなもちさんとくろわしさんにお世話になりました。ありがとうございました!