暴食
「ねーまさ子ちん、それ以上はやめときなって」
「うるさい、まだ食べる!」
暇だったからかつての恩師に連絡を取ったら、週末部活が休みで東京に行くからケーキバイキングに付き合え、と言われた。店まで指定されて行ってみれば、カップル割という男女二人で入ると何百円だかが割引になる店だった。
付き合わされた紫原は確かに甘いものに目がないが、店に入って席に案内されるなり、彼を置き去りにして大量のケーキを持ってきては鬼のようにがつがつ食べ始めたかつての恩師こと荒木雅子に紫原はさすがに自分も、という気分には到底なれなかった。
ケーキをはじめとした甘いものは楽しい気分で食べたいじゃないか、と思いながら、彼はコーヒーを一口二口飲むにとどめた。
みるみるうちに空になった皿に、彼女はまたしてもケーキをたくさん持ってきて、話は冒頭に戻る。
「ていうかさ、もう店も決めてたしカップル割だし、どうせ」
「それ以上言ったら許さん」
どうせまたフラれたんでしょ、といつも通り言われると分かっていながら暴食ともいえる勢いでケーキをむさぼる荒木に、紫原は彼女の皿から一つケーキをさらって食べてみる。甘い。
「ねー、だからさ、俺にしときなよっていつも言ってるじゃん」
笑いながら言われて、荒木は食べかけのケーキに目を落とす。彼のこの誘いに乗るのはなんだか逃げみたいだとずっと思っていた。何から逃げているのか、そう問うのを自分自身で止めながら。
「もう潮時かもしれんな」
「ケーキバイキングに積極的に付き合ってくれる男なんてなかなかいませんよ?」
からかうように敬語で言った彼を一瞥して、荒木はまたケーキを食べるのに没頭した。
まるで、目の前の決まってしまった未来から目を逸らす最後のあがきのように。