傲慢


「今更、こんなことを思っていいものかどうか」
「なんですか?」

 立海大学からほど近い喫茶店は、チェーン店のコーヒーよりも値は張るが、美味しいし静かだ。柳と杏の二人が会う時はいつもこの店を使っている。
 そう思ってから、柳は杏ならきっと大型チェーン店のコーヒーだろうと文句もないだろうと思うし、自分だって入る、と思う。それに昼食だって弁当を作る技術がない彼は大学の学食だし、研究室の仕事で夜が遅くなればコンビニ弁当だ。
 だけれど二人で会う時はこの喫茶店に来る。コーヒーを飲んで、ひとしきり杏の「最近面白かった話」を聞いて、柳は自分の近況を報告して、それから二人は出かけるのだった。
 それはつまり―――

「いや、杏と俺は付き合っているのだな、と思って」
「なっ!?」

 真顔で言われて杏は赤面して一言そう言ったきり、先の言葉が出てこない。
 その一方で、この人はいつもそうだと思いもする。
 いつも理路整然としているくせに、不意に突拍子もなく恥ずかしいことを言うから、と。

「なんとなく、俺の傲りなのではないかと思う時がある」

 やっぱり真顔でそんなことを言う柳に、杏はほうと息をつく。

「傲慢に思ってるのは私の方かもしれないじゃないですか」

 息をついた後にそう続ければ、柳は眉をひそめた。

「なぜ?杏が傲慢?」
「同じことですよ」

 珍しく諭す側に回った杏だったが、柳はいまだ怪訝そうに首をひねっている。
 だから杏は、水を注ぎに来たウェイターに追加のアップルパイを注文した。
 彼の疑問が解けるまで、今日のデートは進みそうにない。