憤怒


 初めに感じたのは絶望ではなく憤怒だった。
 アンリ・マユがヒトに恋し、弱くなったことへの憤怒だった。

「違うな」

 そう自分の心の内を一望して、ベルゼビュートは静かに呟いた。
 憤怒?違う。ヒトに感じたのは確かに憤怒だった。
 だが、彼女その人に感じたのは憤怒ではない。
 それは絶望だった。それは悲嘆だった。

「永遠の命を、俺様に与えたのに」

 あなたは誰にでもそれを与えてしまうから!
 見境なく、分け隔てなく、与えてしまう。あなたは神の中の神だから。

 だから彼は、その絶望を、悲嘆を、憤怒で上書きする。

「今度は、俺様が与える。絶望を、悲嘆を、憤怒を!」

 それはすべて嘘だと彼は知っていた。

 今度こそ、あなたに与える。希望を、楽土を、永遠を。

「それは決して、ヒトの子に与えられるもんじゃない」

 今度こそ、あなたに―――