怠惰
「あこんふくたいちょう、このしょるいにはんを!」
ずいっとネムに差し出された書類を取る代わりに、阿近はその書類ごと小さなネムを抱え上げてそのまだ短い髪を撫でた。
「おーう、ネムは書類運びか。偉いな」
「からかいはけっこうです!」
抱き上げてそのまま、副隊長の執務机まで運んで、阿近はネムを膝の上に抱えてしまう。
「あまりこどもあつかいを…!」
「子供は甘えるの仕事だろ。書類はあとあと」
怠惰どころか、隊長であるマユリが不在がちな十二番隊において、その上すぐに業務を放り投げて研究に没頭する阿近が副隊長になってしまったのだから、それはもう怠惰というよりも迷惑千万な話だった。回覧の書類は大体が十二番隊で止まる、というのは副隊長が阿近に‘交代’してからの通例だった。
「あこんふくたいちょう、これをつぎに回さなくては」
たどたどしく、とにかく目を通して判を押せという小さなネムを知ってか知らずか、阿近は櫛を取り出してかいがいしくその艶やかな黒髪を梳きだすからもう駄目だ。
しかし、この怠惰極まりない時間を終わらせる秘策はきちんとあるのだ。
「阿近三席、すぐに目を通して判を。十三番隊に回覧する書類ですよ」
急に大人びた言葉遣いで、三席と自らを呼んだネムに、阿近は彼女の自分の操縦のうまさに舌を巻く。大脳から作ったというだけあって、時折のぞくこの顔と声に、彼がいくら怠惰でも逆らえるはずはない。
「嬢ちゃんの命ならすぐに」
そう言って素直に書類に目を通し始めた新しい副隊長に、その幼い女神は微笑んだ。