餓鬼
食っても食ってもくちくならない。
風間蒼也にとっての宇佐美栞はそういう存在である。
「食べても食べても、求めて求めても、お前はすぐにどこかに行く」
自分と彼女をつなぐ明確な言葉はいつも変遷している。隊長とオペレーター、旧知、先輩と後輩……数えても数えても、決定的な最後の一欠片はゆらゆらと手から零れ落ちる。
「踏み出せないのは、どっちなんだろうな」
ああ目の前に彼女がいるのに、あるいは目の前に彼がいるのに、手を伸ばすことが出来ない。
手を伸ばせば届くのに、それはいつの間にか霞のように消えていく。
霞を食べても腹はくちくならない。
それはまるで、目の前に出された全てを貪っても足りない賽の河原のように。