天
死神は人間よりも優れた存在とされ、また寿命も非常に長い。
「そんなこと、分かってんだよ」
副隊長に昇進して、研修のため仕方なく読んでいる紙束の一行にケチをつけて阿近は煙草に手を伸ばそうとする。しかしその手は視界の端に映った幼子のために、煙草を取ることもなくそのまま彼女のに黒くつややかな髪に吸われた。
「おじゃまですか」
「ん?暇だから良いぜ、ネム」
眠八號の髪をくしゃくしゃと撫でて、阿近は笑った。
嬉しそうにはにかんだ『ネム』に、阿近は紙束を放り投げて彼女を抱き上げてしまう。優先事項はこんなどうでもいい書類より彼女だ。
ああ、例えば彼女が幾度と死を迎え再生したように、自身にも死が訪れるとして、次こそは、次こそはこの少女を置いていきたいのだ、と。
望むべくもない死の形から脱することも出来ぬ彼は、神にも仏にも、或いは自身にすら出会えぬ道に堕するまま。