捕まえた


 芯で捉える。真っ直ぐなその太刀筋、というのも古風だが、沖田ちゃんの突きはひどく気合の入った突きだ。
 あの日のことが忘れられない。





『じっけんだいになってください』
『へ?』
『つきをね、しゅうとくしたんですが、しょうがくせいはつかっちゃだめってしはんが』

 舌足らずな言葉で言ったそれを、僕は今もはっきりと思い出せる。実験台になれ、突きを習得したが小学生は駄目だと師範に言われたから。
 横暴だ、と当時の僕も今の僕も思う。だけれど彼女の得意げな笑みの前では今も昔も逆らえなかった。

『こう、のどのあたり』
『すんどめしてね』

 そう言って立ち合えば、彼女はすっと体重を感じさせない動作で突きを放った。今思えば、あの頃から天稟の才を持っていたのだ、と思う。寸止めされても、喉元に竹刀がすっと来る間隔は、幼かった僕には恐怖でしかなく、たたらを踏んでしりもちをついた。

『じっけんせいこうです!』

 にぱっと笑って言った少女に、敵わないな、なんて思ったことを覚えている。





 突き、一本、旗が上がった。三本ともだ。間違いようもなく、沖田ちゃんの突きは相手の喉元を抉るように綺麗に入った。相手はたたらを踏んで数歩下がった。

「相変わらずですねぇ」

 それに僕はアリーナ席で思わずぽつんと言う。大学最後の大会、僕は高校で剣道をやめて、そうして大学生になっても剣道を続け警察官になるという沖田ちゃんの最後の試合を見に来ていた。
 彼女の突きを喰らったのは多分高校の時が最後だ。男女の体格差なんて感じさせない軽やかな動きで、綺麗に仕留められた。

「すごーい!今何で旗上がったの?」
「突きが入ったから」

 隣にいる女子大学生の名前は思い出せない。突きが入った、そんな当たり前のことを言って僕はそれをごまかした。

「斎藤君の知り合いなんでしょう?」

 言われて僕はそれに答えず「ごめん、ちょっと飲み物買って来る」なんて言ってその女性と別れた。帰り道はまあ分かるだろう、と思いながら。





「見に来てくれたんですね」
「まあね」

 選手がどのあたりにいるかなんて知っている僕は沖田ちゃんに声を掛けた。そうしたら沖田ちゃんは竹刀を不意に持ち上げて、僕の喉元に突きつけた。

「オイオイ、面も付けてねえぜ」
「斎藤さんは馬鹿ですね」
「ひどいな」
「剣道やめて、女の子と遊んで、適当に就職して。あなたらしいけれど、私は嫌です」

 『私は嫌』なんていうエゴイスティックなことを言って、彼女はもう一度竹刀を喉元に突きつけて、それからその先端でくいと僕の顎を持ち上げた。

「あの日、実験成功したときから、斎藤さんは私のものなんですよ?」

 言葉に僕はぱちくりと目を見開く。……いや、そんなこと分かっていたからここに来たんだ、とそれから思った。

「沖田さん専用の一ちゃんです」
「ずいぶん束縛彼女だこと」
「なにせ20年近い束縛ですからね」

 えへんと沖田ちゃんは言って、竹刀で上げさせた僕の顔をじっと見つめた。




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自分ではやらないくせに剣道好きだな……(管理人のことです)

2020/11/22