sweet
甘ったるい飲み物に、さらにたくさんのトッピングを追加して、嬉しそうにしているアンリに、向かいに座ったベルゼビュートは何の変哲もないブラックコーヒーを飲みながらそれを眺めた。
「甘くねえの?」
「甘いから美味しいのが分からんか!」
さすが女子神様!と言ってその甘い液体を飲むアンリをベルゼビュートは呆れたように眺めた。
「冬期間限定、ねぇ」
「甘い!」
「そりゃ甘いだろ」
嬉しそうに、幸せそうに言ってそのもこもことクリームが盛られ、その上にアーモンドか何かがかけられたコーヒー(と呼べるか知らないが)を啜って楽しそうにしているアンリに、『現世に行くぞ!』と言われたのは昨日のことか。
『今年も女子神様のおススメトッピングが出たから行くぞ!』
『はぁ?』
『天使ヶ原を誘ったのだがネビロスの手伝いがあると』
『あっちはあっちで自由だな…』
自分の地獄でライブを開かれたり、部下の手伝いをされたりと、左門はまだしも天使ヶ原を地獄に落とした意味ってなんだ、とベルゼビュートはじわじわと頭が痛くなるのを感じながら、だけれど、と思ってアンリに向き直った。
『まあいいか』
それが昨日のことである。
*
「今年も美味しい!」
そう言って楽しそうにクリームをすくう彼女の言った『今年も』という単語に、ベルゼビュートは長い月日を思う。彼女と初めてこうしてチェーンのコーヒーショップに入ったとき、注文できなくて泣きそうになっていたのはもういつの話だろう、と。
左門と天使ヶ原が地獄に落ちてから、どのくらいが立つだろう、と。
こうして冬になると決まって二人で現世に来るのは、何度くり返したことだろう、と。
「お前にとっては」
「ん?」
「何でもないことかもしれないんだがな」
何でもない、どころか、一瞬でしかないことを知っていた。
ヒトの世の移り変わりも、神々の移り変わりも、彼女にとっては季節が移ろうよりも短いはずで、だけれどそうして移ろう季節の度に、共に居られることを思う。
「そうだぞ。もう注文も一人でできるし、コミュ障脱却したのでは!?と思うレベルだ」
「そうかよ」
「だがな」
「?」
「だがな、それでもお前と来たいと思うのだよ」
なんだよそれ、と彼は思う。そんなふうに不意打ちで、突然そう言う小悪魔みたいな女に、どんな言葉をかけたらいいのか分からない。いつまで経っても敵わない。
「余一人でもいいのだが、な?」
「バーカ。一人で来たら絶対テンパってなんにも注文できないくせに」
殊更にそんなことを言ったら、眼前の女神が笑った。
一瞬の出来事かもしれない。
「それでいいさ」
短く地獄の王は言った。
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この冬もス●バデート!
2021/1/4