(―ライジング)
彼には一拍の迷いもなかった。足元ギリギリを狙ったショットは、ライジングショットで返された。打ち返した球は重かった。
日曜日
それは、どちらからも決定的な球を打ち込まないようなゲームだった。それは双方が力を相当セーブしているからでもあり、同時に双方が決定的な隙を見せないからでもあった。
―隙を見せたところで、付け込むことに大した意味はないのだが。そういうゲームだった。
「駄目だな」
「なんだ、やめるのか」
体が温まり、臨戦態勢にギリギリ入らないようなラインでボールを操っていた柳が、わずかばかり好戦的に言ったら、彼は特に息が上がっているわけでもないのに転がってきたボールを拾って、トンっとラケットで肩を叩いた。
「ダブりそうだ」
「お前でもそんなことあるのか?」
「現に今ミスっただろ。むしろ一球もミスらないお前が怖い」
「サーブは次もフラット。センター狙い…だったが取り止めにした、か」
「正解だ」
「強気だな」
「試合ならな」
そう短く言って、彼はベンチからスポーツドリンクのボトルを投げた。柳は器用にそれを受け止める。
「それで、話っていうのはなんだ?」
喰えない男だ、と正直に言えば柳は思った。呼び出したのは己だったが、コートに着くや否や「打つか」と橘が言ったそこまではいい。そのサーブも、ショットも、どれもデータと実戦上の彼に即した強気な物ばかりだった。だが、決定打がない。そんなふうに探りを入れるようなゲームを彼がするとは、少なくとも柳には思えなかった。
(サーブミスまで待ったか)
そうして、どうでもいいフォルトの後になって、突然ゲームを切り上げて話を聞く。
多分、と、この段になっても柳は彼の行動を予想しようとしてみた。多分、フォルトが一回出たら話を聞く、というような、当人にしか分からない縛り、或いはルールめいたものを課していたのだろう。
それは凡そ、己の知る『橘桔平』という男のすることではないように思われた。
そんなことを考えていたら、彼―橘は、面白そうに笑った。
「ずいぶんぼんやりしているな。珍しいものを見た気分だ」
「…そうか?」
「そうだ」
そう言って、彼は薄く笑いながらスポーツドリンクを呷った。それは、ゲームの間には露ほども感じなかったのに、どこか獰猛さを思わせる太い笑みだった。
「話があるんだろう?」
彼はやはり笑っていた。獰猛なのに、それは快活な笑みに見えた。少しだけ、彼女に似ていると思った。
メールの返信は思った以上に簡潔だった。
『分かった』
それだけだった。詮索も、躊躇もない。彼女と同じ『たちばな』の名字の知り合いは、一人きりだった。メールの内容は明日、話しがしたいからストリートテニスコートで会えないか、というものだった。それで今日。5分前に着いたら、それよりもずっと早く来ていたらしい橘は壁打ちをしていて開口一番「打つか」と言ってきた。柳としても、テニスコートに誘った手前、「話がしたい」などとメールに書いたとしても、橘がテニスをするものだと思っていてもおかしくはないと思っていたのは事実だが、実際に球を打ってみて、彼が本気ではないことは一球打ち返せば分かることだった。
「分かっていたりするか?」
「何が?」
「いや…何でもない」
そう言って言葉を濁したら、彼はちょっとだけ面白そうに笑う。
「……お前もそういう話し方をするんだな」
『柳さんも、そういう話し方するんですね。なんか意外!』
「……!」
「ん?どうした?」
「いや…」
一瞬、前に杏に言われた言葉が脳内に響いて、柳の思考は停止する。
「橘は…杏の兄だな」
その一言を、柳はなるべくいつもの平常心と冷静さを持って言った。だけれど、その言葉の裏に見え隠れする機微―例えば、彼が妹の名を呼び捨てにしたこととか、いちいち言いよどむように話すその様とか―を、隣に座る彼が読み取れるように。実際、橘は一瞬訝るような顔をして、それから、何も知らないとでも言うように眉根を寄せる『振り』をした。
「なんだ?藪から棒に」
橘は、本当に何も知らないとでもいうようにポーンっとテニスボールをラケットで上に飛ばす。ラケッティングと呼べるような行為でもないそれを、器用にポンポンと彼は繰り返した。
(巧いな)
ラケッティングが、ではない。多分、彼は先程柳が撒いた僅かな情報から―正確には昨日柳が送ったメールから、或いは杏の日々の姿から、柳が話そうとしていることのだいたいを理解しているのだろうと思う。だが、それでもこちらからは仕掛けずに、話すのを最大限待とうとする。話したいことがあるのは分かっているから、少し急かしはするが、土足で入り込んでくるところはない。そこは、妹に似ているようで似ていない。杏は、必要だ、と思ったら入り込んでくるから。そこがそういったことをしない柳には新鮮であり好ましくもあって、同時に、先程から杏の姿がちらちらと兄である橘桔平を通して見えたり隠れたりするのが妙に胸の内を波立たせた。
そんな胸の内を落ち着けるように、柳は秋空を仰ぐ。そうして、柄にもないな、と天に向かって苦笑した。
本当に柄にもない。データと頭脳とテニスで解決できない事柄、というものに自分が直面しているのだ、と思ったら、柄にもないとしか言いようがない。だがその一方で、そんな関係を築けたことがひどく嬉しくもあった。
「そんなに仰々しいことではないのだがな」
「ああ」
首を反らしたままで柳は日常的なテンポで言った。まるで世間話でもするように。それから、秋から冬へと変わろうとする冷たく乾いた空気をすうっと吸い込んで、口を開いた。
「杏を……妹を俺にくれないか?」
そう言ってから、空から視線をはずして、隣に座る橘に視線を移す。橘はというと、聞いているのかいないのか、視線を前に向けたまま、まだポーンポーンと球を跳ね上げていた。
「は?」
だが、彼はその作業をやめないままで、疑問とも怒号ともつかない声音で一言そう発した。
「そのままの意味だ」
柳は柳で、淡々とそう言ったら、橘は今度こそ跳ね上がったボールを手で受け止めて、ラケットをくるりと回した。
「順序がおかしいだろう。俺に話を通せとかそういう意味じゃないからな。杏をくれってなんだ。俺はお前らがどういう関係かも知らないんだぞ?ついでに言えば」
そう言って、橘はもう一度ラケットを回して、テニスコートに続く階段に立ちつくしている少女の方にラケットを向ける。
「あれは物じゃないから、くれとかやるとかそういう扱いはしないで、自由意思くらいは尊重してやれ」
その一言に、柳ははっとそのラケットの先を見る。そうしたら、相手の少女もこちらを見つめ返して、大きく目を見開いてからそれから決まり悪そうに視線をはずして手に持ったバッグに視線を落とした。
「あ…ん…?どういうことだ、橘!?」
珍しく取り乱して柳が言ったら、橘は鷹揚に横目で彼を見た。
「呼んでおいた。安心しろよ、多分聞こえていないぞ。距離が距離だからな」
「そういう問題じゃない!杏が今までどれだけお前に、お前たちに気を遣ってきたと思っているんだ!」
杏は今にもそこから逃げ出したいようだった。当たり前だ。このストリートテニスコートは、不動峰からも立海からも近い。特に不動峰の部員はよく使っているから、彼らの練習がある時、彼らが練習で来るはずがない時にばかり彼女はここで会えるように苦心してきた。―それが、彼らに対する裏切りになるのではないかと、思い悩みながら。
だから、彼の口を衝いて出た怒声は、ある側面では正論だった。だが、ある側面からみれば愚論なのだ。
そうして橘と柳が睨み合っているうちに、案の定、杏はパッと駆け出した。それでも多分、入り口のフェンスにでももたれかかって、どうしたらいいか思案しているのだろうということは、柳にも橘にも分かっていた。思考の方向性に違いがあるとしても。
「俺たちに気を遣う、というのはどういう意味か訊いてもいいか?」
柳は一瞬だけ考えようとした。データで計算出来得る限りの最善手を選ぼうとした。だが、そんなものは通じないところにいるのだ、と思った。テニスのゲームとも、テストの解答とも違う感覚だ。それは、彼女と付き合うことがなければ感じることがなかったことだとも思って、柳は、その細められた目をすっと開く。
「杏と俺が付き合っているからだ」
決然と言ったその言葉と目に、こんな話題でも、こんなにも意思が宿るものなのか、と橘は思う。それは、テニスをしている時の厳しく、冷徹な目とはまた違った緊張感のある目だった。
威圧感のある視線には、焦燥や後悔も滲んでいるように思えた。だが、それはその関係を焦っているわけでも、悔いているわけでもないのだということがよく分かって、橘は目を細めて微かに笑う。『付き合っている』という一言で、今まで妹が思い悩んできたことすべてに説明が付くから、それ以上を彼にも、妹にも聞いたり求めたりする必要性はもうなかった。
「お前から話があるなんて言われたから、そういう方面ならてっきり切原か仁王辺りかと思ったぞ」
「人の恋愛事情を慮ってやるほど、俺はお優しい人間じゃないさ」
そう言ったら、橘は緩めた表情のままで大きく息を付いて空を仰いだ。
「杏がなに抱え込んでいるのは分かっていた。俺には言えないような悩みだろうというのも見当はついていた。いろいろあるものだからな。いくら兄妹でも踏み込めないところはある」
その言葉に、柳は細く息をついた。兄妹でも踏み込めないこと。レンアイというのは、橘桔平という男にとってそういう類のものとしてカテゴライズされているし、カテゴライズしていたということは、ある程度のことまでは気が付いていたのだと思ったら、少しだけむず痒いような気がした。
「一つ聞いてもいいか?」
「なんだ?」
「杏のどこがいいんだ?」
「……は?」
「いや、何というか、さすがに驚いたんだ。お前、杏みたいな跳ねっ返りが好みには見えないから」
至極真面目な顔で振り返って、彼女にしてみれば失礼千万なことを彼女の兄が言ったから、柳は面食らってしまう。だが、この一連の流れで、少なくとも杏が考えていたような事態は何一つ起こらなくて、同時に、ある程度『起こり得る』と柳が予想していた軋轢めいたものも起こりはしないのだということは分かった。だから柳は、少しだけ思案するように言葉を選ぶ。
「何というか……一目惚れに近い」
その言葉に、橘は今度こそ虚をつかれたように目を瞬かせた。
そんな彼に、柳は書店で出会ったこと、全国大会での一幕、再会から今に至るまでのことをぽつりぽつりと話した。惚気のようだが、それはどう足掻いてもこの兄の逆鱗に触れる事柄にならないことは分かり切ったことだった。
話を最後まで聞いて、橘はフーッと息をついてみせた。それは、落胆でもなんでもない。どちらかと言えば呆れに近いような気が、柳にはした。それから橘はゆっくりとラケットを仕舞いだす。
「杏が欲しけりゃ勝手にしろ。俺はそんなことにいちいち口を出すほど過保護な兄でもなきゃ、シスコンでもないからな」
テニスバッグを担ぎ上げて彼が言ったのは、ほとんど肯定だった。それに柳は、立ち上がった橘を見上げる。そこで彼は、苦笑めいたものをこぼした。
「だが、まあ、な。あまり、俺の妹を泣かせてくれるな」
釘を刺すように言われた一言に、柳は薄く笑う。
「なんだ、結局シスコンじゃないか」
「うるさいぞ」
「じゃあ、もらうからな」
「言ったろ。好きにしろ。……だが、まあ、乗り掛かった船だ。杏にはまだここにお前がいることを伝えておいてやる」
今度こそ本当に獰猛な笑みでもってそう言った彼に、柳は一瞬だけ後ろ向きな思考が脳裡を掠めるのを感じ取った。それを読んだかのように、橘は笑う。
「来るさ。杏がここに来る確率は100パーセント」
ちゃっかり彼を真似て、橘はひらひらと手を振りながらコートを後にした。
その後ろ姿をながめて、柳はそれから抜けるように高く青い空を見上げた。
「杏」
掛けられた声に、彼女はびくりと肩を震わせる。掴んでいたフェンスが、かしゃんと頼りのない音を上げた。
声の主が誰かは、振り向かなくたって分かった。分かったから余計に振り返りたくなかった。
声の主は、そんなこと百も承知であるように、顔を見ようとするまでもなくぽんっと彼女の頭に手をのせると、彼女が縋っていたフェンスの横の入り口をすり抜ける。
その時に、一言、いつもの声で言った。
「大丈夫だから、好きにしろ」
その言葉に、杏ははっとしたように顔を上げる。フェンス越しに見えるのは、間違うはずのない金の髪。
「っ……兄さんっ…!」
叫ぶように掛けた声に、彼は、件の男にしたように、ひらひらと後ろ姿で手を振るだけだった。
頭のてっぺんには、兄がかすめるようになでた手の温度が残っていて、耳には、兄の肯定の答えが残っていて、杏は途方に暮れたようにフェンスにもたれかかった。走れば30秒とかからない距離に、彼はまだいるのだ。だって、ここを通らなければテニスコートからは出られないし、兄は『好きにしろ』と言ったのだから。
足が竦みそうだった。だけれど、杏の足は自然と言ってもいいくらいに前に進もうとする。
兄の許可を得られたから、というのが全く考慮されていない訳ではない。だけれど、そんなことは関係無しに、そこに彼がいるのだ。そう思ったら、結局足は前に進んだ。寄り掛かっていたフェンスが小さく音を立てた。
「柳さん…?」
「杏…?」
コートに向かう通路と、入り口のちょうど中間の辺りで、二人は互いに歩みを止めた。
「どうして……」
言い掛けて、杏は言葉を濁す。どうして、ここにいるのかなんて、分かり切ったことだった。それに柳は、わずかに苦笑する。
(はずれだな、橘)
杏が戻ってくる計算は合っていた。だが、柳自身も歩き出してしまうことは考慮に入っていなかった。結果的に、道の途中に突っ立って、二人して呆けている。なんだか少し間抜けな気がした。
どうしたらいいか、と考えて、二人はほとんど一緒に動く。柳は手を伸ばした。杏は半歩下がった。だけれど、柳の手の方が早かったし、半歩下がったくらいでは彼の腕から逃れるなんて出来なかった。
「あ…」
小さく言った時には抱き寄せられていて、下がった半歩は、たたらを踏むように前へと動かされる。抵抗しようか、しまいか、杏は少しだけ迷った。彼の腕の中では、どれも無駄なことのような気はしたけれど。
「すまなかった」
頭の上で、小さく彼が言った。それに、杏は彼の胸板に預けた頭を振った。それは、つい昨日そうしていた時とは全く別のことのように思えた。
「柳さんが謝ることじゃない」
くぐもった声で杏が言ったら、柳はゆっくりと彼女の髪をすいた。
「分かっていたんだ」
「…何が」
抵抗することもやめることにして、額を彼の胸のあたりに押しつけて杏は少しだけ強がって聞いた。そんなこと、分かっているようなものなのだけれど。
「お前が何に悩んでいるか」
「それって、柳さんが考えることじゃないと思うの」
「それは俺が何とかしなくてはならないことだと思っていた。だが、分かっているのと、何とか出来るのは同値じゃないということもあった」
本当なら、と杏は思う。本当なら、こんなことになったら、それこそ修羅場みたいなもので、私は一も二もなく泣いてしまっていただろう、と。それでも、いろいろなことに決着がついたかに見える、否、解決してしまった今なら、泣いたりしないで、思っていたことを言える気がした。
「あのね…いろいろ、あったでしょ…うちと、立海。私はそれでも柳さんが不動峰のみんなを、兄さんを認めてくれているからこうやって一緒にいる、いたいと思う。もちろんそんなことだけじゃなくて、大好きだよ。だから、一緒にいたい。だけど、兄さんにも、みんなにも、どうしても言えなかったんです。駄目だって言われるとか、反対されるのが怖かった。でも、それと同じくらい、柳さんと離れるのは嫌だった。それでずっと、柳さんを苦しめているのも分かってたんです。だけど」
そこまで言ったところで、柳は少しだけ彼女を抱きしめる腕を緩めると、離れた彼女の顔の桜貝の色をした唇に人差し指をあてた。それ以上言わなくていい、と言うように。
「お前の悩みを、分かっていたのにどうやって解決してやったらいいのか分からなかったんだ。データでも知識でもどうしようもなかった。そういうのじゃ駄目なのだと思って、結局橘を呼び出してしまった。なんだか格好が悪いだろう?」
「そんなことない!柳さんがそうやってくれるれ、どうしよう、たいへんなことになったらどうしようって思ったけど、嬉しかったっていうのもあるんです。兄さんが…好きにしろ、って言ったの。だから、なんだろ…こんなに悩んでいたけれど、たった一言でよかったんだって思いました。その一言を言えちゃう柳さんが、なんだろ…王子様みたい」
杏がはにかんで言うのに、柳は少しだけ照れくさそうに苦笑した。
「お前だって十分頑張ったさ。これからは兄上公認ということで、杏も気負わなくて済むから、俺も嬉しい」
『兄上公認』との一言に、杏は少しだけ首を傾げて問う。
「そういえば、兄さんになんて言ったんですか?」
そう言ったら、柳はばつが悪そうに一瞬顔を背けて息をつく。何かまずいことを言っただろうか、と杏が彼の腕の中であたふたしていたら、柳は決心したように、それなのに苦笑を浮かべて言った。
「『妹を俺にくれ』というような感じだな」
「な…なっ…なっ!」
その言葉に、杏の顔はどんどん赤くなる。
「柳さん!話が飛びすぎでしょ!?」
「まあ、切羽詰まってはいたが…俺はそのつもりだぞ。橘の許可も出たことだし、あとは杏次第だ」
それに杏は、顔を覆って「うーっ」と唸った。耳まで赤いから、ショートヘアの彼女のそれは、顔を覆っても隠しきれなくて、柳は嬉しくて、可笑しくて、楽しくて、笑って彼女を抱き寄せた。
「返事は?」
わざと意地悪に訊いたら、杏はむくれ顔で長身の柳を見上げる。
「まずはテニス」
「…は?」
むくれた声で言ったその一言に、柳は一瞬言葉を失った。だが杏は、不機嫌そうな、それでいて嬉しそうな顔で言う。
「テニスしましょ?だって私、柳さんのことで知らないことが多すぎる気がするもの。とにかくテニスの相手してください。そうしたら、柳さんのこと、少しずつ分かる気がするから」
その言葉に、柳はフッと笑った。
「さっきまで橘とやっていたからな。手加減はしないぞ」
「いいですよ」
そこで初めて、杏は大輪の花が咲くように笑った。その笑顔が、柳にはどうしようもなく嬉しくて、愛しくて、そうして、その笑顔を守り抜こうと思った。
まだ、彼のことを知らない私。全部なんて無理。きっと無理。
まだ、彼女のことを知らない俺。全部分かったら、と思う日もあるけれど―
少しずつ、知っていけばいい。
(ロミオとジュリエット、か)
仁王に言われた言葉が柳の脳内を掠めた。―本当は連れ出してしまいたいという思いもあった。でも、仮死の薬を飲ませなくても、上手くいった。
このロミオとジュリエットは、駆け落ちなんてしなくとも、仮死の薬を飲まなくても、これから互いをもっと知っていくのだから。
A week of Romeo and Juliet
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終わりました。思ったよりもかなり長くかかってしまい、申し訳ありませんでした!
2012/9/20