それを獲得して、それを使って、それを壊して、それを修理して。


TECHNOLOGIC


「深司って、パソコンマックだっけ?」

部活が終わったとある放課後、部室で着替えながら神尾がそんなことを言った。

「…マック、ていうか、マックもウィンドウズも持ってる。何だよ、急に。別に俺が何使ってたって神尾には関係ないだろ。それとも何?俺がマックも使ってちゃいけない?なんだよ、まるで自分がマックの優良ユーザーみたいに思ってんのかよ。」
「…相変わらずだけど一言多いんだよ、お前は。ま、ウィンドウズも持ってたんだな。」
「まあね…。」

暴走しかけた俺につっこみを入れて確認する。聞かれた俺の方は、なぜそんなことを聞かれたのかわからない。

「でも、なんでそんなこと聞くのさ?」
「いやな、杏ちゃんにメールの設定について聞かれたんだけど、杏ちゃんのパソコンウィンドウズだからさ、俺じゃ分かんなくって。」

そう言われた途端、俺の機嫌は急降下した。

「杏ちゃんが?」
「そ。」

ふうん、とだけ返して、無言になる俺に、神尾は違和感を覚えたようだが、続けた。

「だからさー、どういう風にしたらいいか俺に教えてくれよ。俺が杏ちゃんにおしえるからさ♪」

そう言った神尾を一睨み。

「な、なんだよ。」
「…何でもないよ。たまには自分で考えろよな。じゃ、俺先に帰るから。」

俺はそれだけ言ってさっさっと部室を出る。後ろから神尾の声が聞こえたが、完全に無視して携帯を開く。

「だいたいさ、何で神尾なんだよ…俺じゃダメなわけ?」

ぼそぼそと呟きながら携帯を打つ。

『to:杏 今帰り。会える?校門にいる』

短く文面を打ち込んで携帯を閉じる。女テニは先に終わってしまっているだろうが、待っていてくれるのではないかという期待を込めて打った文面。他のテニス部員が先に来ないことを祈りながら、校門で待っていると、待ち人はすんなりやってきた。

「ごめん、深司くん、待った。」
「…全然。それより杏ちゃんこそ部活、終わってたでしょ?」
「うーんとね…」

杏ちゃんはちょっと頬を赤らめて下を向く。

「今日は深司くんと帰りたいなあって思って、ちょっと待ってたの。」

不意打ちを食らった俺はちょっと照れた。でもそれを顔に出さないように必死にとりつくろう。

「…そっか…じゃ、帰ろうよ。」

そう言って手をつないで校門をくぐる。

(神尾のやつが知ったら、キレるだろうな…)

俺と杏ちゃんは付き合っている。一応橘さん公認だが、神尾や他の部員たちはそのことを知らない。杏ちゃんに淡い恋心を抱いている神尾のことだ、これが知れたら逆ギレしてくるのは目に見えている。でも今の俺は、そんなことよりもっとずっと気になることがある。

「あのさ…」
「え、なあに?」
「…なんで神尾にメールの仕方なんて聞いたの?」

そう言うと、杏ちゃんは目に見えて動揺した。

「えっと…ね。」

何とかごまかそうとしているみたいだけど、そんなのは受け付けられない。

「…俺もパソコンくらいできるんだけどなぁ。ていうか神尾よりうまくやる自信あるよ。なんで神尾なわけ?俺じゃ不満?あーあなんか腹立ってきた。」

ぼそぼそとまくし立てると、どうしたことか、杏ちゃんの頬が赤く染まった。

「それはね…あの…その…」

立ち止まって杏ちゃんのかわいい顔を真っ直ぐに見る。すると耐えかねたのか、杏ちゃんは視線をそらした。

「えーとね。」
「…答えてくれないら、ここでキスするよ。」
「え!?」

閑静な住宅街。誰かに見られるなんてことないだろうが、杏ちゃんはこういうシチュエーションにはとことん弱い。

「キ…スはダメ!誰かに見られたらどうするのよ!」
「じゃ、答えて。」
「う…」

言葉に詰まった杏ちゃんに顔を近づけると、杏ちゃんの顔がさらに真っ赤になった。

「あ、あのね…」
「うん。」
「最近、私、パソコン買ってもらったって言ったよね?」

そういえば最近、ウィンドウズのパソコンを買ったと聞いた。じゃあ、そのメールの操作の仕方がわからなかったということだろうか?ならなおさら神尾に操作を聞いたのが気に食わない。

「なんで俺より先に神尾に聞いたわけ、メールの仕方。」

ちょっと棘のある言い方をすると、杏ちゃんは頬を紅潮させたままこちらを見ていたが、不意に視線をそらした。

「深司くんに…その、不意打ちでメールしたかったんだけど…仕方がわからなくって…お兄ちゃんは役に立たないし…」

言われた言葉に、頬が火照るのがわかった。何だろう、このかわいい生き物は。

ぐちゃぐちゃに抱きつぶしてしまいたい。

そんな衝動に駆られて、思わず杏ちゃんを抱きしめる。

「ちょ…深司くん!!」

杏ちゃんの制止は聞こえなかったことにした。

「メールの仕方位なら…」

そう耳元でささやくと、びくっと杏ちゃんの肩が震えた。やっぱりかわいい。

「俺が教えてあげるから、神尾なんかに浮気しちゃ、だめだよ。」

フッと耳元に息を吹きかけるように呟くと、杏ちゃんの顔はこれでもかというほど真っ赤になった。

「深司…くん。」
「今度の日曜、部活や休みだから教えてあげる。そしたら俺にメールしてよ。」

そう言って手をつなぎなおす。隣で真っ赤になっている杏ちゃんが愛おしくてたまらない。


TECHNOLOGIC


それをめちゃめちゃにして、好みに変えて、どろどろに融かして、アップグレード俺の理想の彼女完成。




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タイトルを拝借した曲の歌詞を意識しながら。ていうか冒頭と最後は歌詞を踏襲しております。意訳+伊武の願望(=私の妄想)入りまくりだけど。
うちの深司は嫉妬深いようです。