手をつなごう
君と、手をつなごう
黒羽さんと!
真田さんと!
観月さんと!
黒羽さんと!
「あれ?橘」
の、妹さん、と黒羽は続けてそれから、沿岸部のこのあたりで不動峰の人間を見かけるのは珍しいな、と思った。
「黒羽さん?」
「よーっす、潮干狩りの帰り」
おおよそ学校帰りとも、練習帰りとも思えない格好の彼は、それを彼女が疑問に思ったのにすぐ気づいて「潮干狩り」の帰りだと言った。
「潮干狩りですか」
「まあ珍しいわな」
自分で言っても確かに潮干狩りの帰りの中学生というのは珍しいだろう、と思って黒羽は手に持った袋を掲げた。
「あ、そういや昼めし食った?」
何しに来たか知らんけど、と相変わらず大雑把に言った彼に、杏はいえと言った。そうしたら、袋を持った手と逆の手で、不意に彼は杏を引っ張った。
「ちょ?」
「浜焼き、一人じゃ食いきれねえし」
そう言って彼は馴染みの店に彼女を連れ出した。
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浜辺のラッキーガール
真田さんと!
「はぇー」
杏はたまたま入った商業ビルの居合刀を見ていた。なぜこんなところでこんなものを売っているんだろう、と思いながらも、ショーケースの中のそれはハンカチを買いに来ただけの彼女には一生縁がないだろう、と思った。しかも普段使いのハンカチじゃないからここに来たんだ、と思ったら余計だった。
「橘か」
「はい!?」
突然かけられた低い声に、杏は挙動不審気味に振り返る。刀を見ていた後ろから掛けられた声は、立海の真田という見知った声ではあったが慣れるということはないし、どこか脅迫じみている、なんてひどいことを思った。
「興味があるのか?」
「いや、まさか」
「なんだ」
真田はそう言ってそれからその居合刀を見る。自分のものがあるからどうせいらないが。
「斬れるんですか、これ」
「刃をつぶしていないからな。模擬刀とは違う」
興味本位で訊ねた杏に答えて、それから真田はふと思い立ったように杏の手を引いた。
「一つ講義でもしてやろう」
「いや、いいですって!?」
ほとんど強制的に、そこらの甘味処で始まるのはどんな講義なのか、杏は知る由もない。
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頼んでないけど講義の時間
観月さんと!
「おや、あなたは」
「あれ、観月さん?」
最近できた紅茶専門店でばったり会ったのは観月と杏だった。ここはかなり新しい店で、杏は今日、友人と行ってみようと言っていて、待ち合わせの時間よりも早くついてしまったところだった。
手持無沙汰に紅茶を眺めるが、可愛らしくて綺麗だ、という感想以外、紅茶の専門知識がない杏にとってはとにかくキラキラしたもの、とばかり映る。
「紅茶、お好きなんですか?」
聞かれて杏はうっと言葉に詰まる。そういったことに精通していそうな観月に言われると、どうにも冷やかしに来ただけですと言いにくいというものだ。
「えーっと。友達と、その」
「ああ、冷やかしに」
「……はい」
ふふと笑って見透かされたから、素直に言えば、観月は棚のキャニスターを指差してついと杏の手を引いた。
「まあ、僕も今日初めて入ったんですよ、この店は。新しくできたと聞きましてね」
「観月さん紅茶好きそうですもんね」
「好きそうというか好きなんです。杏さんにはこのあたりがお勧めですよ」
苦くありませんからね、と言って彼は笑った。
やっぱり見透かされているようなそれに、彼女は赤らめた顔を見られないようにちょっとうつむけた。
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ティータイムはゆっくりと。
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杏ちゃん誕生日おめでとう!半年遅刻!(今年も6月カウント)今年は未知との遭遇的な三人でした。
2020/10/28