手をつなごう
君と、手をつなごう
佐伯くんと!
千石くんと!
石田くんと!
佐伯くんと!
「危ないよ」
くっと手を引かれて、海を覗き込もうと前のめりになっていた杏の上体が後ろ側に反らされる。
「わっ!」
そんなに強い力ではなかったが、驚いた杏が、反らされた上体そのままに振り返ろうとしたから、手を引いた彼は困ったように彼女を抱きとめて、それからたたらを踏んだ彼女の手を握ったままで、軽く岩場に着地させる。
「一人?橘と来てるの」
「佐伯…さん?」
「ありゃ、ちゃんと覚えてたか」
夏の日差しが海を照らすそこで、困ったように彼は笑った。
君と、手をつなごう
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夏の日差しに、海がきらきら光る
千石くんと!
「カフェがいい?パフェ食べる?ケーキにする?」
楽しそうに言う彼は、きっちり車道側を歩き、これまたきっちり彼女の手を握っていて、離す気はさらさらなさそうだった。
「千石さん、あの…」
奢ってもらっては悪い、という建て前と、道で出会っただけだというのに、どうしてこんなことになっているのか、という本音でぐちゃぐちゃの頭では、杏には言うべき言葉が見つけられなかった。
―――前にもこんなことがあった気がする。どこへ行くの?と訊いたら、曖昧な答えしか返ってこなかった、あの日。あの日は確か、どこかの高台まで行った気がした。
「うんと甘いの食べようね」
へらっと笑われて、まあいいか、なんて、彼女は思った。
君と、手をつなごう
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貴方の方が、だいぶ甘いというそれを飲み込んで
石田くんと!
「おっと!」
「へっ!?」
二人の声は、ほとんど同時に発せられて重なった。二つとも大きめの声だったが、押し流すような駅の人波に、それは吸い込まれて終わりだった。
「大丈夫?」
「あ、石田くん。ごめん」
はぐれるところだったね、とこれまた二人一緒に言ってしまって、思わず二人で笑ってしまう。
「でも、現在進行形ではぐれてない?私たち」
杏がきょろきょろと困ったように探したのは、彼女の手を引いてはぐれることを阻止した彼のチームメイトだ。
「あー…うん、大丈夫。俺、目立つから多分すぐ見つかるよ」
だからそれまでは。
君と、手をつなごう
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それまでちょっと、人波に紛れて
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杏ちゃん誕生日おめでとう!企画第三弾まで来ました。今年はちょっと増量の三年目です。
2013/6/28