手をつなごう
君と、手をつなごう
跡部くんと!
神尾くんと!
赤澤くんと!
跡部くんと!
「なんだよ」
「だからね」
何だかんだで付き合い始めて三ヶ月。健全な学生同士のお付き合いで、やることはだいたいやった。遊園地にも海にも行った。だけれど杏には、一つだけやりたいことがあった。
護衛が付いているでもなく、高級外車で移動するでもなく、ただ、一緒に歩きたい。
たったそれだけの小さな夢は、だけれど相手が彼だとかえって壮大な夢物語のようだった。
「手」
もうなりふり構っていられなくて、ズイッと右手を差し出したら、車道側の彼は驚いた様に目を見開いてから、笑った。
「流石にあれなんだよ」
「何よそれ、どういう意味?」
「アンタが相手じゃ、流石に緊張するって意味さ」
歌うように言って、彼は自然な動作で彼女の手を引いた。
君と、手をつなごう
=========
そして幸せな王様とお妃様は―――
神尾くんと!
「わっ!」
「へっ?」
グイッと後ろに引き寄せられて、そうしたら、引き寄せられる前に杏が立っていたその場所に、ぽてんとテニスボールが落ちた。
「あっぶね…」
「アキラくん?」
そんなに速度があった訳ではないが、どうやらすっぽ抜けて飛んできたボールが見えたのだろう。ストリートテニスコートで、飛んでくるボールとは違う方向を見ていた杏を避難させた神尾はほっと息を吐く。それから「すみませーん」と向こうの方のコートから声が聞こえて、彼はそれを拾い上げる。
「ごめん、ありがとう!ボーっとしてた」
「えっと…ごめん!!!」
「え?」
左手は杏とつないだまま、右手はボールを拾い上げたところで、神尾の顔は赤く染まった。
君と、手をつなごう
=========
非常事態は、君の温度
赤澤くんと!
「あれ?」
「ありゃ?」
先程見送ったはずの少女が、部室の前に舞い戻っていて、赤澤とその少女である杏は互いに首を傾げた。
「忘れもんか?」
兄からの届け物を杏が持ってきたのが30分前だから、書き終わった部誌を携えて鍵を掛けたところで出会った彼女のために、もう一度部室を開けようとしたら、杏はぶんぶん首を振った。
「……通用門ってどこですか?」
「って、そういうことかよ!迷子か!」
大きめの声を出したら、杏がびくっと肩を震わせたから、赤澤は慌ててしまって、そうしてそれから手を差し出した。
「悪ィ、うちの学校広いんだよ」
「えっと?」
「連れてってやる。こっちもあと鍵返しに行くだけだし」
確かにこれ以上迷ったら、帰れなくなってしまいそう、と思った彼女は、その手を取った。
君と、手をつなごう
=========
ジーザス!神様が笑った。
========
杏ちゃん誕生日おめでとう!もう四回目の企画でした。光陰矢のごとし
2014/6/28