手をつなごう
君と、手をつなごう
内村くんと!
日吉くんと!
鳳くんと!
内村くんと!
「すごかったね!」
驚きとも興奮ともつかない、しかしながらいつもよりも格段に大きな杏の声に、ふいと内村は振り返る。大きな声であってもなかなか届かないのは仕方がないが、慣れているからか彼はその声を聞き逃すこともなかった。
「大丈夫だった?」
「え?うん、全然。こういうの初めてだから楽しかったよ!」
会場にはまだにぎやかな音楽が流れている。人波が二人を押し流すように動いていくから、内村は思わず手を伸ばす。
「はぐれると悪いから」
「あ、ごめん、ありがとう」
つないだ手にきらきら落ちた初夏の日差しは、未だ熱気を保っていた。
君と、手をつなごう
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初夏の宵、残響
日吉くんと!
「偵察か」
ぎろりとお世辞にも優しくはない声を掛けられて、杏は振り返る。そこに居たのは氷帝の次代を担う男だった。
「ちっがいますぅ!今日氷帝で女テニの合同練習なの!休憩中!」
現にラケット持ってるじゃない、と言おうとして前のめりになった杏の今日の運勢はあまりよろしくないだろう。
「何もないところでつまづくなよ、橘妹」
前のめりに倒れかけた杏の手を引いた日吉は、はああと大きなため息をついた。古武術の足さばきは、決してこういう時に使うものではない、と思いながら。
「ありがと」
「どういたしまして」
素っ気なく言ったがつないだ手は離さない。また転ばれては堪ったものではないのだから。
君と、手をつなごう
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彼と彼女の今日の運勢は―――
鳳くんと!
「橘さん?」
ジュースを片手に声を掛けられて杏は振り返る。
「あれ、鳳くんだ」
誰か待ってるの?とどちらからともなく問うたのは、ここが映画館のロビーだからだった。杏は桜乃と朋香を待っているのだと答えた。
「俺は日吉と樺地をね」
パンフフレット売り場を指差して、それから鳳は杏の手を引いた。
「人多いよね。俺体でかいから」
自分の周りは人混みが少しマシ、という意味だろう。
「ありがとう」
「どういたしまして」
つないだ手は彼の振舞いに似合わず大きく無骨だった。
君と、手をつなごう
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ロマンス?それともアドベンチャー?
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杏ちゃん誕生日おめでとう!6回目!今年は二年生で統一しようと思った感じでした。同い年!
2016/6/28