手をつなごう
君と、手をつなごう
千歳さんと!
ミユキちゃんと!
桔平兄さんと!
(全員大人の未来話です)
千歳さんと!
「久しぶり」
新幹線の改札口で待っている、と聞いてたのに、千歳はなぜかホームにいた。
杏の荷物を奪うように受け取って、彼は線路の側になっていた彼女と体の位置を入れ替えた。
「杏が一番遅かったとよ。ミユキは昨日着いたし、桔平も」
「そういう千歳さんはいつ来たの?」
「さっき。馬車馬のごとくミユキに派遣されました」
笑って言って、それから千歳は階段を一段上がって杏に手を伸ばした。
「ちゃーんと、連れ帰らんと怒られる」
その、兄とも友人ともつかない男の手を取って、杏は笑った。
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お帰りと言えばただいまと言う
ミユキちゃんと!
「杏姉ちゃん、兄ちゃんが迎えに行ったからほんなこつ心配やったあ!」
派遣したのはミユキだと聞いていたのに、と思うとこらえきれない笑いを隠しもせずに、杏は駐車場で千歳と杏を待っていた彼女に言った。
「私で最後だったって」
「最後も何もないっちゃ!だって今日は杏姉ちゃんの誕生日やもん」
「ね、これミユキちゃん車変えた?」
「うん、こないだ。走行距離がね、あんま日本で乗ってる気してないんやけど」
ミユキもそんな話をする年齢になったのだなと感慨深く思えば、それとは正反対のような、昔のままのミユキがぴょんと杏の手を取ってそれから腕に抱きついた。
「早くいこ!桔平兄ちゃんも待ってるっちゃ!」
変わらないな、と思いながら杏はそのやわらかな手を握った。
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変わる日々、変わらない日々
桔平兄さんと!
「あの二人は相変わらず元気だな」
お前の誕生日なのにな、と、兄が言ったので、杏は笑って応じた。
杏の誕生日とミユキが張り切って予約を入れた店を出て、夜の街をそれぞれの目的のために駅へと向かう道すがらだった。
「いいじゃない、いつも通り」
「いつも通り、ね」
その言葉に兄も笑ってみせた。
いつも通りの街並み、いつも通りの四人。それが大きく変わったのはいつだったろう。
誰かが東京に行って、誰かが大阪に行って、誰かが進学して、誰かが海外に行って、誰かが…。
たくさんのことが起こって、たくさんのことが過ぎ去った。
もう人生のどこに行っても交わらないのではないかと思ったことも、何度もある。
それでも変わらないことが一つだけある。
「杏も相変わらずだな」
数歩前を歩く兄妹を眺めて、桔平は杏の手を取って言った。
「兄さんもね」
その武骨な手はもうラケットを握らないかもしれないけれど、と思いながら、杏はその手をゆっくり握り返した。
前を歩く二人が、早く早くと桔平と杏を呼ばわる。
手をつないだままで、二人は駆けだした。
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あなたに置いていかれないように―――
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杏ちゃん誕生日おめでとう!フライングで7回目!今年は初めて連作でした〜九州!
2017/6/26 二日フライング!