「お帰り。大変だったね。」
「深司くんもお留守番お疲れ様。」
「深司は別にお疲れじゃないよな?」
「うるさいな、今日は神尾が護衛だったから気が気じゃなくて大変だったよ。」
「深司ィー!!」

二人の様子を微笑みながら見つめて、杏は深司に問いかける。

「兄さんは?」
「今晩もお出かけ。」
「そっか…私着替えてくるね。」
「すぐお茶淹れるから。」
「ありがと。」

杏が二階に消えると旗包に身を包んだ神尾は長椅子に横たわった。

「お前それ動きにくくないわけ?杏ちゃんに何かあったら許さないからね。」
「今日は杏ちゃんもチャイナドレスだっただろ?そういうパーティーだったんだよ。」

弁明にフンと一つ鼻を鳴らして、伊武は杏が気に入っている紫砂茶壷を棚から出した。

「橘さんは?」
「カジノで商談。石田がついてったし、他にも護衛がいるから問題ないよ。ていうか神尾、橘さんの動向くらい把握してくれる?朝からバタバタだった杏ちゃんはまだしも、ついてっただけのお前が分かってないとか…橘さんはボスで、お前は仮にもうちの幹部なんだからもう少ししっかりしろよ。あーあやんなるな、こんな奴に杏ちゃん任せたなんて。今度橘さんに進言しよ。」

ぼそぼそとぼやきながら茶の支度をする伊武を神尾は横目でちらりと見やって、それから目を閉じた。
伊武のぼやきはいつものこと。慣れきっている神尾にとってはどこ吹く風というものだ。

「桜井達は本部か。」
「ああ。」

この広い中華風の邸宅は、ファミリーの幹部だけが使える一つの隠れ家だった(と言っても少しも隠れていない訳だが)。
広い邸宅。しかし護衛もメイドも一人もいない。その方が気兼ねなく使えるだろうと考えて橘がそうしたのだ。杏などはその効果が如実に表れている。ボスの妹として、色々と大小問わず雑事をこなす(橘はそのことをあまり快く思っていない)が、彼女は本部のビルに月一度程しか顔を出さない。本部では羽を伸ばせないから、と杏はいつも言っている。そのこともあって、邸宅にはいつも〃留守番役〃の幹部が常駐していた。杏は別に独りでも構わないと言うのだが、そういう訳にもいかず、結果的に幹部はこの隠れ家に集まる。

「アキラくん、寝ちゃった?」
「寝てないよ!」

奥の階段から掛けられた声に元気に反応し神尾は飛び起きて、長椅子の自分の隣をポンポンと叩いた。

「どうぞ、お姫様。」
「やめてよ。」

笑いながら、しかし紅い長椅子の神尾の隣に腰掛ける。

「いい香り。烏龍茶ね。」
「凍頂烏龍。杏ちゃん好きでしょ。」
「深司くんはお茶淹れるの上手だよね。」
「ほめても何も出ないよ。」

笑い合って小さい茶碗を三人で傾けた。


scar―キズアト




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誰得?私得です、すみません。書きたいことがまだほとんど書けていませんので続きます。まだ杏ちゃん病んでない←
書いてて思ったのですが、チャイナドレスの杏ちゃんとかに会ったら興奮しすぎて困ります(重症)。