一幕 虎徹勇音


「切先が届いた時には、私は死んでいるのです」

 その日の卯ノ花隊長はどこか不思議な感じがした。隊舎の縁側でお茶お出ししたら、あなたも座りなさいと言って、ご相伴に預かることとなったのだが、隊長はお茶を一口飲んで、唇を湿らせるようにしてからそう言った。

「それは、死神として斬魄刀を扱う者への戒めでしょうか?」

 私はその言葉の意味が分からなくて、だけれどなるべく模範的な返しをした。だけれど隊長は薄っすらと微笑んで首を振った。

「いいえ。私のことです」
「え…?」

 私の疑問に答えるでもなく、卯ノ花隊長は夜の空を見上げた。月が出ていた。銀色の月。

「切先が届けば、私は死ぬのです」
「それは……」

 誰しもそうではないのか、という言葉と、隊長に切先を届けられる者など居はしない、という言葉が錯綜した。

「勇音。私は―――」

 その後の言葉はなかった。月は冴え冴えと私たちを見下ろしていた。


***


 それから随分の時が経って、私は卯ノ花隊長からの最期の手紙を受け取った。その時初めて私はあの日の隊長の言葉の真意を知った。
 卯ノ花烈という死神は、或いは、卯ノ花八千流という死神は、その死を、どこかで望んでいたのだ、と泣き崩れながら私は思った。それは、あの日の切先が届くという言葉が、その切先を届かせてくれる誰かを求めているのだと、頭のどこかで感じていたからだった。