浅き見じ


 飽いてたいのだ。
 自らの、定めに。
 飽いていたのだ。

 ささやかな夢すら見るまいと定められた己を詰るように。

 私はあの男を愛していた。
 努々叶わぬ夢なれど。
 努々敵わぬ恋なれど。

『蝮もらいますわ』

 だから私は、こんな形で私の夢がかなうことに肯定することなど出来はしなかった。





 ぽつんぽつんと落ちてくる透明な液体を数えるのは飽きない。
 真剣な顔で私を射貫くように見つめている男を見るよりも、点滴の滴が落ちて私の体に入ってくるのを見ている方が私には楽だった。

「何度言うても同じや」
「なんで」

 不浄王の討伐が終わってから、私はぱたりと倒れていた。弟たちが帰ってそれから数日後のことだった。魔障だった。私の体は不浄王の目を受け容れるのに足りない器だった。元のような体力は冬になった今でも戻らない。騎士團の手が入ったこの病院には、もう半年近く入院していることになる。

「あてはアンタと結婚することはない」

 決然と、零れ落ちそうな感情を覚られないように。
 私はそう告げて、男を振り返った。
 私がこの世で初めて愛して、初めて恋して、初めて失う、志摩柔造という男を。

 ああ、私はお前と結ばれたかった。
 そう言えたのなら、どんなに楽だろう。
 幼い日の思いを捨てることなく、失うことなく居られたなら。

「なんで」
「私があんたを愛しているからや」

 変わらぬ答えに、男はひどく傷ついたような顔をした。
 それに私は、薄らと笑った。