狂想春秋
『高校の時の部活の先輩に聞いたの、宝生さん、結婚式絶対行くからね!』
電話口から聞こえた高校の同級生たちがそろえた声に蝮は瞠目した。
「せ、せやけどあてらあんまし…」
『それって全部志摩先輩のせいじゃない!!??』
え、と蝮が疑問を口にしよとしたところで、鬼の形相の柔造が未来の妻から携帯を取り上げた。
春
「宝生さんって、志摩先輩とおんなじ祓魔塾に通ってるんだよね?」
クラスメイトに声を掛けられて、蝮はびくっと肩をはねさせてそちらを振り返る。
新学期どころか新入生である蝮にとって、東京の高校に突然放り出されたのは大変に苦労の多い出来事だった。
口を開けば関西の言葉が出てくる自分は、周りからきっと浮いてしまっていると思うとなかなか言葉が出てこない。だから、こうして声を掛けてもらえるのはありがたいが同時にどのような反応をするのが正解なのか悩んでしまう。
(あかん、あかん、こういう時にこそちゃんとせんと…!)
「ほうやけど」
出てきた声は、だけれど緊張からどこかそっけない。彼女たちの言った「志摩先輩」の人好きのする顔が頭をよぎって、ひどく気鬱になった。
「じゃあ、宝生さんもエクソシスト?だっけ、それになるの?」
「うん、その予定」
今度は少し余裕が出来てふと微笑んで蝮は返す。ああ、この同級生たちはきっと祓魔に理解のある人間なのだ、と思ったら話をするのも上手くいきそうだと思ったのだった。
「じゃあやっぱり宝生さんって優秀なんだ」
「そんなことあらへんよ」
「すっごい術とか使えるの?」
興味津々な様子の数名のクラスメイトに、そんなたいそうな術は、あ、ナーガなら、と思ったが、蝮はすぐに思い直す。ナーガなんて廊下では出せないし、きっと気持ち悪がられてしまうと思ったのだ。だからもっと他に何か、と蝮が思案を巡らせていた時だった。
「それやったら蝮、蛇出してみたらええやんか」
「し、志摩!」
あ、志摩先輩だーと有名人らしく言われている彼、志摩柔造はすぐそこでこの会話を聞いていたらしい。そうして蝮が今まさに避けようとしていたナーガ召喚をさせようというのだ。
「なーがってなんですか?」
「んー、蝮の得意な術でなー!めっちゃ…可愛くはないか…こないなとこで出すもんでもないか。あー俺が言うたことやけどあぶのーてかなわんわー」
「志摩!もうええやろ、誰もこないなとこでナーガなんよう出さんわ」
「おー、せやな。ちゅーかお前遅すぎ、塾始まるやろ」
「ほんなら行くわ、ごめんな」
軽く頭を下げて柔造に続いた蝮に、同級生たちはきょとんと顔を見合わせる。
「志摩先輩、また宝生さんを連れてっちゃったね」
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(阿呆やろ蝮ナーガなんぞ出したら!!そんな強そうでカッコエエとこ見せたら男子からも女子からも惚れられて京都帰れんようになるやろ!!とりあえずナーガは危険ってあの子たちに刷り込んどこ…)
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