二時限目

 ワンピースにボレロ姿の蝮は、どこからどう見ても途轍もなく可愛い。デートデートと言いつのったら叶ったこのデートは、軽いショッピングとお茶くらいで終わるだろうが、それでも俺にとってこんなにゆっくりと蝮と一緒にいられるのは本当に久しぶりのことだった。
 いつから、こうなっていたんだろうと隣を歩き他愛もない話をしながら思う。
 離れていたのは、本当は二年だけなのだ。俺が先に学園に行った一年と先に卒業した一年以外、俺たちは今まで生きてきた中で離れていたことがなかった。だけれど、本当の意味で「離れて」しまったのはいつだろうと思う。そうして、それは少しずつ実質的にも俺たちを離していった。
 会話が減った。喧嘩はするが、まともに話をしなくなった。相手のことは何でも分かっているつもりになっていた。

「あ、この店入ってもええ?」

 蝮がそんな他愛もないことを言って俺を見上げる。その隻眼に見つめられて、ああと思う。試す機会、と俺は言った。
 俺たちは、たくさんのことを試さねばならず、その機会をいつもどちらかがふいにしてきた。
 話し合えばよかった。
 試しに聞いてみればよかった。
 例えば、俺がずっとお前のことを恋い焦がれていたように、お前も俺を好いてくれているのか、と、訊ねてみるように。
 例えば、俺はずっとお前のことを見ないでしまったけれど、お前はまだ俺を信じてくれるだろうか、と、問うように―。