三時限目

 普段、というか祓魔師をしていたころならきっと入らなかった、若い女性向けの洋服店は、どこかきらびやかで、私に似合うものがあるのかどうかわからなかった。
 だけれど、例えば志摩柔造という男の「恋人」期間をやっているなら、たぶんこういうお店でかわいらしい服を買うのが普通なのだと思った。そう思ったら、彼の好みなんかまるで知らない自分がいることに気が付いた。

(知らなかったのは、あても一緒)

 地元にいた頃も、東京に行った頃も、そうしてこちらで働き始めた頃も、彼の隣にはずっと如才ない彼女がいた。なぜその相手がくるくる変わるのか、私には見当もつかなかったけれど、とにかく、彼はいつも、祓魔も寺も関係のない、優しそうな女の子と一緒にいた。
 思い返すと、学園にいたときさえ彼の彼女は普通学級の子だった。そうやって具に観察していた自分が少し可笑しかったが、それで思う。
 普通の恋がしたいのではないか、と。
 例えば僧正血統や、寺、悪魔、そういうものに全く縛られない、普通の生き方が彼はしたかったのだろうと思った。思うたびに、本当に幼い時から、物心ついた時から彼に抱いていたほのかな恋心が打ち砕かれるような気がしていた。

「これ蝮似合いそう」
「ほうかな」

 私が今着ているものより幾分装飾の多いワンピースを二着持って、彼は鏡の前で私に当ててみている。
 こうやって、選んでいたのだろうか。
 たくさんの女の子。
 私以外の女の子。

 ああ、そうだ。またとない機会だ。

「あてには似合わんよ」

 これは、私が貴方に相応しくなどないと貴方に思ってもらう、またとないお試し期間だから。