四時限目

「あれ、志摩くん!」

 掛けられた声に、俺はふと振り返る。そこにいたのが誰であるのか、一瞬どころかどうあがいても認識できない自分がいて、どう返答したものか、と考えた。

「覚えてないかな?えっとね」

 言いさした女性は、やわらかな笑みをたたえていて、記憶の中にそんな相手がいたような気がした。たぶん、付き合っていた相手だと思う。

「外す?」

 蝮の声がして、俺ははっと振り返る。

「あ、いいんです。私も彼を待たせてるから。可愛い彼女だね。やっぱり志摩くんモテるんだ」

 じゃ、と短く言って、その店内から男性と連れ立って出たその女性は、例えば隣にいる宝生蝮との共通項はどこにもなく、むしろ全くの正反対のような気がした。黒い髪、柔らかな目線、持ち物はどこかふわふわしている。

「ああいうコの方が、あんたもいいんと違うの」

 皮肉のような内容なのに、そのようには全く聞こえない、平板な声で蝮は言った。
 わんわんと警報が鳴る。
 結局、俺は……