『あんた、とくどしたってほんま!?』
『ええやろ』
『ててさま、なんでじゅぞうは良うてあてはあかんの?あても、あても!』
『×××、得度いうんは遊びでするもんと違う。それにあんたさんは女の子や』
『まあまあ、×××ちゃんも可愛いもんやないか。そう真面目に言わんでも』
『八百造さん、あんたは甘いんや』
『蟒は厳しすぎるわ』

 そこで、ガバッと柔造は薄っぺらい布団から起き上がった。山に来て随分経つが、ここに来て初恋の女の夢なんて、と思う。だけれど、その初恋の相手の名前だけがぼやけた夢だった。

「蟒様の、娘?」

 ぼんやりと思う。たまに仕事の関係でやってくる、今自分がいる山の主、蟒と一緒に、ついでのように遊びに来る少女は、彼の初恋だった。だけれど、互いに‘あんた’‘おまえ’と呼び合っていて、名前を呼ぶことがなかったからか、名前だけが不確定だった。
 だけれど、この広い山にならいるのではないかと思ったこともない訳ではない。
 そうしてそれから、柔造は寝起きのどうしたって動かない頭に清冽な印象を与える女性を思い出した。

「宝生、蝮…?」

 霧散していた思考は、綺麗に繋がった。銀色の長い髪、この山の娘。

「まむし…なんか…?」

 だとしたらあれは一目惚れなんかじゃなくて。

「蝮やったのに、なんで…」

 だとしたら彼女の口から出てきた兄の名を信じたくなくて。