自分で思っても情けないな、と思った。
 本当は母上と朔も一緒ならいいのだろうけど、オレ自身にそんな自信がまだなくて、じゃあ望美ちゃんならいいのか、というのは、彼女が特別だからなのか、それとも『梶原』という家にとって彼女が別のところから来た人だからなのか。
 街道を行く彼女の足取りはしっかりしたものだった。出かける前は望美ちゃんはオレが引いて馬でもいいな、疲れがたまりにくいしと思ったけれど、そんな心配自体がそもそも必要なさそうだった。それもそうか。彼女にしたって妹にしたって、男のオレたちと一緒に京から鎌倉、あるいは西国の果てまでだって駆け回っていたのだから。

「磨墨を連れてくればよかったね」

 それでもそんな言葉を口の端に乗せるオレは本当に嘘つきだね。

「いいです!磨墨が山道で怪我しちゃうかもしれないもの。それにどうせ乗り心地がーとか言って景時さんは引いて歩くつもりだから磨墨一駒で来ようとしただろうから。私、馬だって九郎さんに習ったからちゃんと乗れるのに」

 あっさりと考えを見抜かれて、オレは瞠目する。驚いて、でもそれから、この程度の考えなんて簡単に読まれてしまうから望美ちゃんはオレの隣にいてくれるのだったなと思った。

「ね、今度望美ちゃんにも馬買ってあげるね」
「ほんと!?じゃあ葦毛か白がいいな。磨墨と反対の色」
「え、磨墨の色嫌い?」
「違いますよ、並べておくとオセロみたいで可愛いだろうなって」
「おせろ…?」

 他愛もない話をしながら街道を行く。鎌倉はもうすぐそこだった。
 そう、君はオレの考えなんてあっさり見抜いてしまうから。
 屋島で、オレが一人残ることを許さなかった君を、オレは呪ったことがあるんだ。ああ、きっとそこまでは見抜いていないかな。見抜いていないでほしい、かな。
 あの時、君がオレの浅慮を見抜かなければ、オレは死ねていたと本気で君を呪ったことがあるんだよ。
 オレの浅慮はもちろん残って戦うことなんかじゃない。
 あそこで死んでいれば、一人死んでいれば、君を殺さずに済むと思っていたんだ。
 だから、オレが死ぬことも、オレが逃げることも、許してくれなかった君がオレは憎らしくて、呪わしくて、そうして誰よりも愛しかった。

「君のために生きようと、思ったんだ」
「え?」
「さ、まだ昼だしこのまま街道を突っ切って鎌倉に行ってしまおう。夕方までには邸に着けるよ。家人が用意をしているからね」

 オレの言葉を聞き逃した君に、オレは安堵する。
 誰かのためにすべてを懸けようなんて思えたのはたぶん君が初めてだった。
 懸けられるだけの物が自分の中に残っているのかも疑問なほどに、オレは手の中にある母上や朔、あるいは自分自身を守ることに精一杯で、ほかの何かが欲しいなんて思ったことがなかった。
 そんなふうに思えたことがなかった。
 だけど、そのすべてを懸けたら、君に届くかもしれないと思ったんだ。

 君に銃口を向けた時、初めてその光は一条差した。
 その時が初めてだった。その瞬間までオレは君を愛しながら呪ってさえいた。

 君を殺すことになるオレを呪いながら、君自身を殺させる君を呪って、愛して、乞うていた。

 なんて浅はかで、馬鹿で、傲慢な男だろう。
 だから、この傲慢を見抜き愛してくれるから、君がこの世界に残ってくれたこともたぶんオレは知っているんだ。

「花を手折ればそれは罪だよ」

 一歩先、街道の物売りに気を取られた彼女の背中にふとそう自分の罪を告白して、それからオレは彼女の腕を取った。鎌倉は目前だった。