庭に咲く花をいくつか手折って手桶に入れる。水は入れなかった。重いだけだし、今日一日持てばいい。
 そうやっているオレを、望美ちゃんは手伝ってくれたけれど何をするのか、どこに行くのか、そこまでは聞かなかった。
 昨晩の懇願ですべて覚ってしまったのだろうと思ったら、オレはなんて卑怯で弱いんだろうと改めて思う。

「さ、行こうか」

 左手にその花の入った手桶を、そうして望美ちゃんが迷わないように右手をつないで邸を出る。右手をつないでいないと、君はきっと迷うだろう場所に行くんだ、と思ったらどこか奇妙なことに思えた。





「鎌倉ってさ、似てるとこある?元の世界と」
「けっこう海岸沿いとかは似てるかなあ」

 歩きながら望美ちゃんはつぶやくように答えてくれた。望郷も、郷愁も、今は深く感じてほしかった。わがままだね、君をもう放す気なんて微塵もないくせに、今はその世界を懐かしく思ってほしいんだ。
 その理由だって、オレのところにいるのだということをより深く思ってほしいからなんだ。望郷よりも、郷愁よりも深くオレを思ってほしい。
 だから、オレは君をここに連れてきた。

「着いたよ」