「私は、景時さんを失いたくなくて、失くしたくなくて、一緒にいたくて、ここにいるんだよ」
震える声で、涙をこらえるように望美ちゃんに言われて、オレは彼女から震えが自分自身に伝播するのを感じていた。
震えも、涙も伝わりオレの中にすとんと落ちる。すとんと落ちたら落涙している自分がいた。
「オレも、君を失わないためにはどうしたらいいかずっと考えていた。君を失わないで、殺さないで、誰にも損なわせないで済む方法を」
そう、オレ自身にすら、彼女を損なわせないで済む方法を、オレは必死に考えていた。
そうしてそれが叶ったら、オレはもっと強欲になった。
君が欲しくてたまらない、君と生きたくてたまらない。
もしも君がオレと同じ思いを抱いてくれるなら、それはなんて至上のことだろう。
君はこの世界の人じゃなくて、戦う必要だってきっとなくて、オレの隣になんていなくたってよくて、オレを助けなくたってよくて、それでも君がここにいてくれるなら、君と生きていたいとオレは願うんだ。
「願うよ、何度でも。君が欲しいと願う」
「私、も、ずっと願っていたから。あなたを一人にしないで、景時さんが死んでしまわないで、一緒にいられる、未来を」
オレはきっと君のその震える言葉を半分も理解できていないんだろうなと直感的に思った。オレが願うよりも深く、強く、君がオレのいる世界を望んでくれたのが何故か分かったから。それだけで、今は十分だ。
「景時さんが願ってくれるなら、私無敵です」
泣きながら微笑んだ君に、オレはたくさんのことを知った。
じゃあきっと、君がオレを生かすことを願わなかったオレがいたことも、
じゃあきっと、オレが君を殺すことになるのを願わなったオレがいたことも、
君はきっと、全部知っているんだね。
見抜かれていたのはなんだろう。
オレの浅慮?オレの心?オレの…何を?
ああ、そんなことだけれどもうどうだっていい。
今はもう、何もいらないと君は言うかもしれない。
例えばオレが、君のことを得られたこれでもう何もいらないと言うように、君もそう言ってくれるのではないかと、今のオレは思うことができる。
「君を手折るよ」
「はい」
「君はもうオレのものだから」
「景時さんももう私のものですよ」
オレの傲慢な告白に、君は笑ってそう言い返した。だからオレも笑って返す。
「何言ってるの。オレはとっくに全部君のものだよ」
あなたを手折る。
それは、罪かもしれないけれど―――
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