序
【ハイエロファント・エメラルドの場合】
「なにこれ」
自意識、無意識、認識。そういうものが具わった時に、もうそこにいた『法皇の緑』に僕はとても興味があった。だって体の一部だったから。
だって意識の一部だったから。
自由に動くし、自由に使えるし、自由に……?
「どうしてしゃべってくれないの?」
そう言ってみてから分かった。しゃべる必要がないんだ、と。
だって僕が考えていることがそのまま分かるみたいだし、僕が考えた通りに動いてくれるし、僕が見ているものが見えるみたいだし。
「じゃあ君は僕なの?」
でもそれは違う気がする。だって。
「でも、みんなは君に気付いていないよ?」
ねえどうして? 見えないみたい。
母さんに言ってみたけれど不思議そうにされちゃった。
幼稚園で君に頼って少しだけ高く飛んでみたら、周りの子が驚いちゃった。
どうして? なんで? みんなそこにいるんじゃないの?
「そっか」
法皇の緑は答えてくれなかったけれど(だって僕みたいにしゃべってくれないから)、でも困ったみたいにほほえんでくれた君に分かったことがあって、だから。
「みんな知らないから、みんな見えないから、駄目なんだ」
僕とも、君とも、ともだちになってくれないんだね。
*
理解とか、そういう小難しい話じゃあなかった。
名前を知っていたのはなんでかも覚えていない。彼はしゃべっていないと思ったんだが、意識そのものに刻んでくれたのかもしれない。小学生くらいになってから図書館で調べて「ハイエロファント」が「法皇」の英語読みだと知った。タロットカードの読みとして使われると知ったが、タロット占いなんて知らないし、占い自体に興味がなかったからどうでも良かった。「エメラルド」のページには緑色の宝石の写真が載っていた。本当に、彼のように透き通った緑だ。
「緑かあ」
透き通った緑。
「いいなあ」
だって僕には彼しかいない。
理解だとかそういうんじゃない。
ともだちがほしいとか、そういう単純なことだったんだけども、その時にはもう、友達なんて出来ないし、作っても疲れるだけだと思っていた。
真に分かり合えないとか、理解してもらえないとか、そういう小難しいことを並べて自分を慰めようと頑張ってはいたが、本当のことを言うと。
「疲れたからいいかな」
だってハイエロファント・エメラルドがいるし、それに。
「一人でいれば、誰にも見えないから、そうやって気配を消しておけば」
ひとりぼっちでも、安心できるんじゃないかな。
誰にも傷つけられなくて、誰も傷つけないから。
安心、出来る、気がした。
安心 あんぜん あんしん
ぜんぶ、じぶんのため。
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