閑話

【正誤】

 人は駄目だと分かっていながら間違いに踏み出すことがある。
 それを止められないのは何故だろう。
 常に最善を選び続ければ、道を踏み外すことは絶対にないのに。

「理論上、そうじゃあないのか?」

 毎日同じ時間に起きて、栄養のあるものを摂取して、挨拶はしっかりと。
 遅刻はしないように、周りと衝突しないように、そうして毎日同じ時間に寝る。

「みんながみんなそうすれば」

 いや、少なくとも自分自身がそれを守れば。

「そんなに日常的なことだけじゃあない」

 ああ、でも、だから。

「嬉しかったんだ。平穏、安心、友達」

 DIO、さま、がそれを全部くれるって言うから。
 それって、正しくないのかい?
 分かっていたんだよ、間違っている、誤っている、だからゲロ吐くくらいに怖くてさ、ていうか姿を見て、近づかれて、声を聴くたびに吐くくらいには拒絶していたのに、嬉しくて仕方なくて、今まで全然、誰も正しくなかったんだって『間違って』しまって。

「だから、そうやって間違いに踏み出すことを否定することが僕には出来ない」

 だって、それが間違いだったなら僕は一生救われなかった。
 それが仮初の救いだとしても。
 それが間違いの救いだったとしても。

「救われてはいたから、吐き出してしまうほどに笑って、吐き出してしまうほどに悶えて、吐き出してしまうほどに喜んだんだ」

 その感情に、正誤はない。


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