【モハメド・アヴドゥルの場合】

「占いってどういう感じですか?」
「占い?」
「……うん」

 花京院に問われて、さて、と考えてしまう。彼の問にではない。占い、というもの自体に対してだ。

「アヴドゥルは日本を出る時、承太郎にタロットカードで星のカードを選んだだろう? それに……占いってなんだろうなって」
「ああ……そうだな……だが私の専門は実のところタロットやカバラではなくてね。占星術だ。あの時のタロットはたまたまだな。私もジョースターさんも大アルカナに由来していたし、よくよく考えれば花京院もそうだったから、承太郎もそれで良かった気がするよ」

 そう言って空を見上げる。今日は星が良く見える、ということは野宿な訳だが、と思いながらそうしていれば隣で花京院も夜空を見上げた。

「占星術って星座占いでいいのか? こんなこと言うと失礼に当たりそうなんだが、日本だと新聞とか雑誌とかに載ってるイメージというか……」
「ハハ、そうだな。花京院なら八月生まれだ、獅子座でも見ていたかな?」
「そうなるんだろうが、あんまり興味はなかったから」

 正直にそう答えた彼の顔は、まだまだ子供だ、と思い目を細めてしまった。

「星座占いと思われがちなんだが、星の運行や天体、月や太陽、地球を含めた天体の動きで全体を見る、と私は教わった。まあ、商売としてはひとりひとりの運勢を見るというていでその時々に合った星の並びで金運だとか、こっちに行ったらいいとかそういうこともあるんだが……」
「へえ」

 興味があるのだかないのだか、いや、あるんだろうがどこか納得していない、というか、もっと聞きたいが、どうにも飲み込めないような花京院の相槌に、それもそうだ、と思いながら続ける。だってそうだろう?

「花京院の思っている通りだ。本来は個々人に当て嵌めていいようなものじゃあないんだ、占星術というやつは」
「いや、そういう否定的なことが言いたいんじゃなくて!」
「いいんだ、本当のことだからな。星の並び、運行、成り行きは机上で分かるものでもないと言われたなあ。本当にそうだと思う。いつかそれが運命なら運命に従うと言っていたのはジョースターさんだったか。その通りで、星の並びなんてものは誰にも変えようがないまま動くし、流れていく。それは私たちの生きているうちには終わらないし、変わらない」

 そう言えば花京院はどこか困ったように、だが先程よりもずっと納得したようにこちらを見て頷いた。

「だから占い師なんてやっていても本当は分からない。誰がどこで、誰に出会って、どうなるのか、そんなものはその時にならないと分からない。そうしてそれを『運命』なんて言葉で括っていいのかも分からない」
「そう、なんだろうか?」

 星空が見えるが、その星空を見上げている私と花京院で同じ様にそれが見えているのかは分からない。それと同じことだ。どこに切れ目を入れて、どこで区切って、どこで分けて。
 星座なんてそうだろう、と思っている。獅子座に見えるやつにはそう見えるだろうが、全く違う形に見えるやつだっているだろう。誰にも分からない。誰にもそれを否定できない。

「だがな……いや、だから、か。占い師として花京院の悩みに答えてやろう」
「は?」

 驚いたようにこちらを振り返った彼に笑ってみせる。やはりまだ子供のままの顔つきだな。

「どこで誰に出会おうと、何も間違いではないぞ?」
「あ……の……」

 そうしたら彼はこちらをじっと見た。射抜くような視線には、揺れる言葉と違って迷いはなかった。短いようで長い旅。いや、彼の生きた時間に比べれば、ずっと短い旅だろう。だが。

「そうだ。DIOに会って、あの男によって自分を肯定したことは、間違いじゃないと僕は思っています」
「そうか」
「正しくはなかったけれど、それが最初になっているから」

 そう言い切ることが、どんなに痛みを伴うとしても。


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