薄情薄氷

 なるべく普通でいようと思った。
 どうせ分かり合えないから。
 どうせ見えないから。どうせ分かってもらえないから。
 だけれど、なるべく普通でいようと思ったのに、気づいたら一人だった。
 それは僕が普通でいようとしたんじゃなくて、僕が周りを遠ざけていただけだった。


どうせ どうせ どうせ


 だから、結界を全て断ち切られ、腹を貫かれた時に、DIOのそれを何か考えるなどという以前に『ああ死んだな』とどこか冷たく思うしかなかった。それなのに思い出したの父さんと母さんだった。

「す、みません、こんなの、都合、よすぎ、ますよね」

 言えば良かった、寂しいと。いえ、ば、分かって、くれた、かも……みえな、く、て、も、たぶん、だって、このひとたちは、そういうの、関係なかったの、だから、と遠くにかすむ目でジョースターさんを、み、て。

「行ってきます、くらい、いえば、よかった」

 ただいまも言えなくて、『すみません』ともう一度思うをとしてから、僕は無理やり思考からそれを吹き飛ばした。考えろ、考えろ、考えろ。そうだ、せめて、ここで死ぬなら、ジョースターさんたちを。

「つくづく薄情な男だな」

 無理やり思考を切り替えないと、そんなことも考えられないのか、と。まだその世界に未練があるのか、と、とりあえず余計な血を吐いて回りそうな脳を動かした。
 ……本当に、どこまでも薄情な男だ。

「悪かったな」

 だけれどそんな自分に笑って悪態をつけるくらいには。

「嫌いじゃあ、ないけどね」