「ディオ……どこですか、ぼくは、君のものです」

 ぼんやりとした声がして、ゆっくりと花京院の目が開いた。

「意識はあるか?」
「ディオだ」

 そう言って触れていた手に頬ずりしてきた花京院の母親によれば、あの初めての発情期のかなりの症状の重さと、寛解後に私が急遽イギリスに戻ることになったショックからか、二回目の発情期が彼にとっての一度目と書き換わっていたらしい。
 一方で、薬の過剰摂取の理由は私だろう。私のものになると決めたから、他のアルファを呼び寄せてしまう潜在的な恐怖心がそうさせていたのだと分かる。

「寂しい思いをさせてすまなかった」
「謝るのはぼくの方です。もう泣いていない? ぼくは邪魔ではありませんか?」

 やっと笑って、それでも不安げに見上げる花京院にゆっくり口付けてみれば、既に終わっていて追加していなかった抑制剤のためか、むせかえるような甘い香りがした。

「もう自前の会社の社長だ。ついでにブランドー家の当主の座も手に入れた」
「?」
「誰にも遠離はいらないということだ。待たせたな」

 そう言ってチョーカーに触れたら、嬉しそうに笑った花京院がそのロックをカチリと外した。

「待ったもなにも、ぼくは最初からディオのです」
「本当にいいのか? 縛ることになる」
「噛んで」

 抱き寄せられてそう言われて、その香りと、何よりあの日からずっと求めていた彼の首筋に歯を突き立てれば、ビクビクと花京院の身体が震えて、あえかな声がした。

「ぁっ……うぁっ、あつ、い、きもち、あ、やっ、ンッ、ああっ!」

 少しずつ浮いてくる痣のような跡、これが番の契約の証なのだろうと思いながら、まだ少し血の出るそこを舐めてやれば、花京院は必死に身を捩って逃げようとする。

「まって、やめて、やら、やら! だめ、きもち、やっ、あっ、へん、アッ、ん」
「なんだ、感じてるのか?」

 そういえば「発情期の抑制剤」は投与をやめていたな、とか、番にしてしまえば私にしかフェロモンは効かないが発情期はあるな、とか邪な考えが首を擡げて、広いベッドに乗り上げたまま膝で軽く兆している股間のあたりを刺激してやれば面白いほど身体が跳ねた。

「ディオ、やめて、いま、やら、やめっ、イッちゃっ、あっ!」
「イッていいぞ?」
「あ、や、あぁ、イく、や、見ない、で! いく、いく、からあ!」
「ああ、ちゃんと見ていた。もう着替えさせてやった寝巻きまでどろどろだな」
「やっ、うそ、しんじ、ら、れな、っあっ……っん」

 一気に下着まで脱がせて下半身を露わにさせてやってから、さすがにな、と思い、先ほどまでの点滴にも入ってはいたが念には念を入れて錠剤を取り出し口に含ませる。

「ん?」
「水だ。飲め」

 大人しくこくこくと飲み下したのを確認してから、薬剤についてとこれからについて説明することにした。

「今飲んだのは避妊薬だ」
「!?」
「抑制剤はいったん投与を中止したから、今のお前の発情を止める方法は番の私の精液を胎内に取り込むしかない。これからやることは分かったな」

 笑ったら花京院が真っ赤な顔を更に赤くした。

「お、横暴だ!」
「大丈夫だ、優しくしてやる」
「そういう問題じゃあない、し……そ、の!」
「なんだ?」

 なにか奥歯に物が挟まったような言い方に柔らかい髪を撫でてやれば、恥ずかしそうに彼は言う。

「ぼ、く、もう体力とか、限界で、うまく動けないし、何より初めて、だから、せっかく番になった一度目なのに、君を楽しませ、られないと思う……」

 恥ずかしそうに、それでいて不安で仕方ないというようにしょんぼりと言った花京院に思わず舌なめずりしてしまう。

「構わん。というよりも、貴様を善くしてやって、可愛がって、私好みにしてやるのが主人の務めだろう? なあ、花京院?」

 そう言ったら組み敷いた彼が羞恥からかふるふると震えた。それが面白く、愛らしくなって駄目押しの様に耳許で囁く。

「私なしではいられなくしてやろう、典明」

 びくんと私の番が跳ねた。





「あっ……そこ、んっ、やらぁ」

 コリコリと乳首をいじれば、ずいぶん感度がいいのか気持ち良さそうに吐息を漏らす。

「嫌だ? こんなにしておいてか?」
「ンッ」

 わがままを言う口には何度口づけただろう。唾液が混ざり、拙いながらも舌を絡めようとしてくるその先を甘噛みすれば、それさえ刺激になるのか、口の中でくぐもった嬌声が上がるから、気分が良くなって、今度は乳首ではなくオメガ特有の乳腺ごと胸を刺激すれば、必死に抵抗するように、呼吸を求めるように唇を離した花京院はあえかな声を上げた。

「ンあっ、やら、なんで、きもち、こわい」
「怖くなどない。ただ感じていれば良い。ほら」
「あっ、やっ、んぁっ、やら、いきたく、にゃ、むね、やらぁ!」
「ん? イきそうなのか? 構わん」
「やら、やら、やらあ!」

 先ほどからもう止まらないのか、精液の色も薄くなってきた性器と腰のあたりをなぞれば、体が跳ねてまた達したらしく荒く息をついた花京院に面白半分で尋ねてみる。

「初めてのわりに達したのは何度目だ?」
「わか、分からない、も、やだ」
「そんなに嫌なら、もう終わりでいいのか?」

 意地悪く問えば花京院は困ったように欲に濡れた目でこちらを見上げた。

「もう、意地悪しないで、入れてくれ」
「お強請りにしては五十点といったところか」
「なんです、それ」

 不貞腐れているのに欲にまみれているその肢体の後孔に指を這わせればびくんと緊張したように身体が硬直するが、オメガに特有の愛液で軽く慣らせば私の指でも一本なら難なく呑み込んだ。

「ひっ、なっ、に?」
「緊張するのは仕方がないが、なるべく息は止めるな」
「ん」
「出来れば力を抜いていろ。すぐに良くしてやるから任せておけ」

 そう言えば少し安心したのか、呼吸を続けるから力も抜けてきた頃合いに指を増やして拡げれば、ぴくりと少し違う反応があった。

「あ、んぅ? きもち、い?」
「ほーう? 浅いところが好きか?」
「ひぅっ、ひろげなっ、やっ、そこ、あっ!」

 一気に三本まで増やして拡げながら擦れば、甘い声がしながらぽたぽたと愛液も止まらない。

「拡げないと私のものが入らないだろう?」
「そ、ですけど! あっ、やっ!」

 必死に顔を隠そうと腕を上げるのがいじましいやら腹立たしいやらで、浅いところをやめて一気に押し入れてみれば、身体が仰け反って顔を隠そうとしていた手は悲しいかな、シーツを掴むので精一杯だった。

「きゅうっ、に、あ、おくっ、んあっ!」
「とかなんとか言いながら、蕩け切った顔が愛らしいな」
「見るな!」
「やれやれ、わがままばかりのじゃじゃ馬だが、そろそろいいか」
「あっ」

 ズルリと指を抜けば、喪失感からか小さく声を上げたが、間髪を入れずにそこに自身を宛がう。

「すまんが、少し痛いかもしれんぞ」
「いい、ですから」

 とろんと笑ってはいるが、無理をしているのだろう花京院のそこを割裂くようにゆっくり押し入れば、息を詰める気配がして、落ち着かせるために額や頬に口付けた。

「痛いようだな、すまない。無理をしなくていい、力を抜けるか」
「んっ、大丈夫、です、ディオは、気持ちいい?」
「はっ、こんな時までこちらの心配か。気持ち良すぎて搾り取られそうだ」

 そう言えばへにゃりと笑ったと同時に緩んだ力に一気に最奥まで押し込めば、下がってきていたいわゆるオメガの子宮口に亀頭が吸い付く感覚がして、その瞬間に花京院の身体が跳ねた。

「ひうっ!? な、に? やっ、んっ!? きもち、い?」
「大丈夫だ、ほら、怖くない、気持ち良いだけだろう?」

 何度も口付けるように奥をトントンと叩けば、だんだんと力の抜けた身体と、理性が快感で融かされた精神がこちらに縋ってくる。

「ディオの、気持ち良い、すき、すき、ぼく、ディオのらから、もっとぉ、んぅ」
「もう何言ってるか分かっていないようだな……」

 それはそれで可愛いからいいんだが、と思いながら、こちらももう限界だ、と声を掛ける。

「ナカに出す。いいな」
「んっ」

 了承とほぼ同時に射精すれば、恍惚とした表情の花京院に抱き寄せられた。

「中にいっぱい、ディオの、出てる、ぼく、ちゃんとディオのに、なれた?」
「お前は最初から私のものだ」
「はあい」

 嬉しそうに笑った花京院はそのままゆっくり眠りに落ちた。