「もうついていけない、勝手にしろ、勝手に死ね」
俺の視線と言葉に、土方は笑った。その笑みに僅かばかりの苦さがあったことが、まだ、まだ止められると思ったのに。
その苦い笑みを、まだ俺は信じられるはずだったのに。
まだ、まだ、まだ。
土方も近藤さんも止まってくれる。これが三文芝居になったっていい。だから。
「じゃあ永倉、斎藤はどうする?」
「……あ……」
喉から落ちた声はひどく不明瞭だった。
その駒を出されたなら、出すことが出来るなら、土方には自信があるのだと思ったら、目の前が暗くなった。
「捨てるのか」
まだ、まだ、だから。間違うな、ここで、まだ、間違えない。
そうでなければ、土方も、近藤さんも、何より、斎藤が、死んじまう。
「捨てる」
だからきっぱり答えたら、土方は溜息をついて、もう一度笑った。迷いのない笑顔。ああ、そうか。俺は、最後の一押しをしたのか。
「本人に言えよ、ここで止まるのか。斎藤に訊いてみろ」
訊けるもんなら、と言われた気がした。
……だけれど俺は訊くしかない。
斎藤は、まだ欲しいもん手に入っていないのだから、そんなことは分かっているのだから、繋ぎ止められないと知っていたのに。
*
どうして、どうして、どうして。
「なんで、なんで、なんで!」
どこに行くんだよ、なんで捨てるんだよ。
「みんな、みんな、みんな!」
これがもう勝てないと分かっている、分かっているのに着いてく僕が馬鹿で、だから捨てるのかよ。
「新八も、副長も」
沖田も、山南さんも、局長も、芹沢さんも、藤堂も、みんなみんなみんな。
「おまえは何が欲しい?」
「な、に……?」
僕は、ただ。
本当に、ただ。
「見返りは、いらない」
答えに少しだけ新八の青い瞳が揺れた。
そうしてそのまま、彼は振り返らなかった。
*
「お、れは……」
怖かった。ただ怖かった。斎藤が『無償の愛』を求めるのは、ある意味で自由だったのかもしれない。ある意味であの『新選組』という組織に縛られていたのかもしれない。
だけれど。
「怖い、怖い、怖い」
俺は、斎藤に、何を求めたんだ?
「愛されたかった」
愛したかった。
「すまん、ごめん、だから、もう」
奪わないから、もう自由になってもいいのだから。
だから、もう。
「俺のことは……」
ああ、駄目だ。
首を絞めて、息を止めてでも、おまえを連れて行きたかったのに。
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