「もうついていけない、勝手にしろ、勝手に死ね」

 俺の視線と言葉に、土方は笑った。その笑みに僅かばかりの苦さがあったことが、まだ、まだ止められると思ったのに。
 その苦い笑みを、まだ俺は信じられるはずだったのに。
 まだ、まだ、まだ。
 土方も近藤さんも止まってくれる。これが三文芝居になったっていい。だから。

「じゃあ永倉、斎藤はどうする?」
「……あ……」

 喉から落ちた声はひどく不明瞭だった。
 その駒を出されたなら、出すことが出来るなら、土方には自信があるのだと思ったら、目の前が暗くなった。

「捨てるのか」

 まだ、まだ、だから。間違うな、ここで、まだ、間違えない。
 そうでなければ、土方も、近藤さんも、何より、斎藤が、死んじまう。

「捨てる」

 だからきっぱり答えたら、土方は溜息をついて、もう一度笑った。迷いのない笑顔。ああ、そうか。俺は、最後の一押しをしたのか。

「本人に言えよ、ここで止まるのか。斎藤に訊いてみろ」

 訊けるもんなら、と言われた気がした。
 ……だけれど俺は訊くしかない。
 斎藤は、まだ欲しいもん手に入っていないのだから、そんなことは分かっているのだから、繋ぎ止められないと知っていたのに。





 どうして、どうして、どうして。

「なんで、なんで、なんで!」

 どこに行くんだよ、なんで捨てるんだよ。

「みんな、みんな、みんな!」

 これがもう勝てないと分かっている、分かっているのに着いてく僕が馬鹿で、だから捨てるのかよ。

「新八も、副長も」

 沖田も、山南さんも、局長も、芹沢さんも、藤堂も、みんなみんなみんな。

「おまえは何が欲しい?」
「な、に……?」

 僕は、ただ。
 本当に、ただ。
「見返りは、いらない」

 答えに少しだけ新八の青い瞳が揺れた。
 そうしてそのまま、彼は振り返らなかった。





「お、れは……」

 怖かった。ただ怖かった。斎藤が『無償の愛』を求めるのは、ある意味で自由だったのかもしれない。ある意味であの『新選組』という組織に縛られていたのかもしれない。
 だけれど。

「怖い、怖い、怖い」

 俺は、斎藤に、何を求めたんだ?

「愛されたかった」

 愛したかった。

「すまん、ごめん、だから、もう」

 奪わないから、もう自由になってもいいのだから。
 だから、もう。

「俺のことは……」

 ああ、駄目だ。
 首を絞めて、息を止めてでも、おまえを連れて行きたかったのに。