ある日のこと

「あの頃の新選組は、本当に負傷者への衛生的な環境というだけではなくてね」
「……はい」
「君もそうだった」

 誰も彼も、と良順先生はそのでかい墓の前で呟いた。

「若人が精神的に揺らいで、ただそれだけで身体を壊すこともあった。だが、その一番に問題だったのは、当人にその自覚がないことだ」

 だから、と先生は言った。

「その頃の記憶があってもなくても、今を生きている君たちは、せめて」

 せめて家族がいて、せめて安寧な生活があって、せめて、せめて、せめて。

「あいたい」

 俺の言葉に先生は応えなかった。もう会っただろうとも、何も。

「小樽には、いつ頃発つんだい」

 もう、あえない。