「だってね」
まじまじとこちらを見てくる風間の視線を宇佐美はどうにか受け止める。もうこういう関係になって5年近く経つし、そろそろ慣れないと様々な意味で限界点なのだが、何をしようが真剣そのものの顔で見てくる風間はこういう時に厄介だ。
だけれど、その視線を受け止めきれないとか、その視線を外してしまおうとか、そう思った時は一度だってなかった。それは、恋人同士になる前からずっとだ。同じ部隊にいた時から、彼の視線を外すこと、彼の見るものを見ないことは彼女の選択肢には含まれていやしなかった。
風間蒼也という存在が、宇佐美栞と言う存在の中にあまりにも当たり前にありすぎて、そうだというのに一向に溶け出してしまうこともない。常に受け入れて、常に受け止めて、常にその内側に、彼は彼女を、彼女は彼を保ったままでここまで来た。
「今日は雨でしょう?」
「そうだな」
「アタシたち今から出掛けるでしょう?」
「間違いない」
「傘をさすじゃないですか」
そこまで言ったところで不思議そうに首を傾げた風間に合わせて宇佐美もかくんと首を傾げる。
「意味が分からない」
「だって、今日の風間さんはラッキーアイテム持ち放題ですよ?」
「……は?」
「しかも運気最悪からのラッキーアイテム持ち放題とか運気がうなぎのぼりの気配しかしない!だって最低なら上がる余地しかない!羨ましい!」
本心からそう思っているだろうことを言った彼女に、風間は一瞬ポカンとしてから思いっきり吹き出していた。
「本気で言っているのか」
「当たり前でしょ!」
もー、馬鹿にしてるでしょ!とぐちぐち言いながら宇佐美は思いっきりクッションを抱きつぶしてそれからピッとテレビの電源を切った。
「運勢も最高らしいし、行くか」
「そですね」
そういえばあの日も、と彼ははっきりと覚えているあの日のことを思い出した。
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