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『俺はお前が好きだ』
はっきりとした口調で言われたそれに、宇佐美は笑って応じた。自分が考えているほど深く考える必要がどこにもなかったのだ、と風間はその段になってやっと覚った。
『だからあまり諏訪にべたべたするな。俺の好きはそういう好きだぞ』
『はい、風間さん』
素直な受け答えは部下だった頃のままで、それが却って可笑しいと感じるほどだ。
『風間さん今日傘忘れてきたんでしょう?』
『は?……ああ』
『会議にも出ないで傘一つで因縁つけてるってボスと迅さんが』
『風間テメーオレリンチする暇あったら会議に出ろよコノヤロー!』
『……迅め。余計な世話だ』
会議室のモニター画面で、訓練室一つ一つの音声を拾うのは相応のことがない限りやりようがない。まさか、風間が諏訪に因縁をつけた程度で拾ったりしないだろうと思われた。
だとすれば、自分が傘を持っていないために荒れまくっているのは濡れすぎて会議に出られない、と伝えた迅だけだろう。そんなの、彼のサイドエフェクトなんて使わなくても分かることだ。
『ボスには迅さんが付いて帰るって。珍しいですよね。でもそのおかげでアタシこっちに来られたの。帰りましょう』
そう言って宇佐美が差し出したのは、売店で急いで買ったらしい雨傘だった。
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